第26話ヒーロー

 「」のなまえはリアだ。


 うっすらと頭に残っている。リアというなまえで誰もが「」のことを呼んでくる。


 きおくの中ではパパやママ、ともだちが言ってくれた。


 いまは白い服を着たたくさんのだれかは呼んでくれなかったけど。


 それでも「」の名前はリア。あたりまえの話。


 気持ち悪い、どんどん自分の中には無かった言葉が流れ込んでくる。


 まえは、何も考えたことは無いのに。表現方法だってもっていなかったのに。


 昔の思い出の「」でも、いまのたくさんの誰かに世話されている「」でもない。


 知らない人が心の中にいる。この人はどこかからか、しれっと忍び込んだのではない。


 きっと、あったかい気持ちに触れて自然に生まれたのだ。良いことだ。


 ありがとうを言いたい。


 でも、この空っぽのカラダに知らない人を産んでくれたヒーローは目の前で目を閉じている、口を閉じている。


 揺すってもちょっと叩いてもまた話しかけてくれない。


 寂しい。寂しい…?


 言葉はたくさん手に入れたけどこんなに言葉の通りの感情が浮かんでくるのがおかしくてたまらない。


 早くヒーローに会いたい。話したい。もっと心を感情を知りたい。


 でも分かっている。まだ出来ない。ヒーローは疲れて眠っているのだから。


 困ったな。ヒーローがいないと誰が世界を助けてくれるのだろうか。


 うーん


 そうだ、思いついた!


 ヒーローはもう既にいるじゃないか。


 目の前のヒーローは言ってくれたんだ。


 生きてほしい、と


 意思を持ってほしい、と


 輝いてほしい、と


 これならヒーローの願いを叶えられるし、世界も助けられる!


 あと、ヒーローは自分のことをオレと言っていたな。受け継ごう、なにもかもを。



 「オレ」がヒーローになろう。


 本当のヒーローが目覚めるほんのひとときでも構わない。  


 …できればずっとヒーローでいたいな。


 どっちでもいいや。とにかくオレがヒーローになるのが、それがイチバンいいんだ。



「待っていて…。オレが必ずあなたを助けてみせるから。そして、二人でヒーローの役目を果たそう」



『後はよろしくな』


 あなたは、そう言ってオレに託してくれた。


 ボロボロになっても。声が掠れても。血を吐いても。


 どんな状態になろうとオレに最後まで言葉を残してくれた。


 ならば、その大切な大切な言葉を胸にこの先の未来を意思を持って輝いて生きていくって誓うよ、オレのヒーロー。

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