第22話作戦前
「そうだ!お前さぁ、なんか抜けてそうだから先に忠告してやんよ」
輸送車がホムンクルス研究所が内部に建設されているというエンテイ遺跡付近の廃村に到着し、俺たちは仮説キャンプに腰を置いた。
そこである程度準備の時間を設けられたので武器の確認、荷物の整理などをしている最中、カルマリが不意に話しかけてきたのだった。
「何をだ?」
「なんでもこの任務のために編成された部隊の隊長がガイガ・アレキサンドル中将らしいんだってよ」
ガイガ・アレキサンドル中将…。その名声と共にあまり芳しくない噂をよく耳にする。
曰く、悪魔に魂を売った。
曰く、規律を乱した隊員を何人も殺した。
曰く、体に非倫理的な魔術改造を行っている。
等などと物騒なものや眉唾的なもの、オカルト的なもの。千差万別とした俗言が流されている人物であまり良いイメージを持たれてはいないらしい。
「それは確かに気をつけなきゃいけないかもな」
「ああ、だから下手な事をしないでおこうぜ。こんな事で死んだら浮かぼうにも浮かばれねぇよ」
カルマリは眉間に皺を寄せた気難しい顔をしたまま、腕を組んだ状態で頭を上下に揺らしていた。
「ぷっ」
彼なりに張り詰めた空気を作っているようだが冗談にしか思えずに吹き出してしまった。
「なーに笑ってるんだよー。こちとらチョーゼツ真面目に話しとるんだがー!?」
俺の様子が気に触ったらしく体を絡ませ体術をかましてきた。
「ってばか!辞めろ!おま、力強すぎだろ!?」
「人のことを小馬鹿にする奴にはこれくらいの天誅は正当!」
「だぁぁぁ」
そんなくだらないやり取りをしていると突然声をかけられた。
「何をしている」
「「え」」
まるで一切の感情を持たないかのようで鋭利だけは研ぎ澄まされた声音が聞こえた。
「他の者は既に支度を終えている」
ただ淡々と事実を述べているはずなのに寒気が止まらない。顔を見上げるとその声の持ち主に相応しいと言える程に熱を持たぬ底冷えされた目をした軍人がいた。
「ハッ!すみませんすぐに向かいます」
カルマリは俺から離れるやいなや背筋を伸ばし高らかにそう告げた。
自分も一呼吸遅れたが同様に体裁を保った。
「速やかに用意をしろ」
「了解!」
軍人は俺たちの応答に顔色一つ変えることなく外に出るのであった。
暫くして去ったことを確認してから二人して顔を見合わせる。
「あれはヤバい」
「だな」
火の無い所に煙は立たぬというが、案外巷の噂は本当ではないかと思ってしまう。
そう感じてしまうくらいにはアレキサンドル中将という男は常人にはない凄みを有していた。
(同じ中将でもミナスさんは本当にフレンドリーだったんだな…)
思わず特捜室の室長が恋しくなってしまうほどだった。
▲
「43フォーメーション」
俺たちが支度を終え、集合した途端に中将は短く告げた。
「了解!」
全員が発声すると同時に編隊を行った。
集まった12人の軍人たちは指示された通りに横4列縦3列の隊列を組んだ。あまりに突然のことで何も考えずに並んだ所、どうやらカルマリとは位置が離れてしまったようだ。
(まあお互い成人もしてるし大したことではないがな)
「聞け」
無事に編隊が成された状況を把握してから中将は前に立ち任務内容を告げようとしていると誰もがそう信じていた。
「右から二列をA隊、残った部隊をB隊とする。A隊はエンテイ遺跡に突入し私の指示に従い行動。B隊は5分後同様に突入。その後の指示も全て私が随時行う。以上」
アレキサンドル中将から出た内容があまりにも説明不足で俺だけでなく他の軍人も困惑している気配がしていた。
通常の作戦、任務であれば目的・行動内容・指針などウンザリする程度で説明がなされる。
だというのに、これはあまりにも杜撰とも言える。
「では、A隊。私に続き前進」
質問の時間さえも取られずにアレキサンドル中将は遺跡へと足を進めた。
俺は、B隊であるため傍観していられるがA隊の者たちは慌てながら中将に続くのであった。その中にカルマリの姿が見え彼も動揺しながら歩いているのが見て取れた。
(嫌な予感がする)
自分たちの作戦開始が始まるまでに時間はある。その間やることは無いので突っ立っているしか出来ないが妙に心臓がざわめくのが分かる。
この遺跡の中で何が行われているのか、俺は一体どんな行動をしなければならないのか。
人を、ホムンクルスを殺さなければならないのか。
いくら考えても心が落ち着かない。僅かに右手が震えているの伝わってしまう。
時というものはいつだって残酷に訪れる。5分が経過してしまいB隊もエンテイ遺跡に突入し作戦に参加するのであった。
その先で目にした光景は…地獄。
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