第19話新たな任務

「さて、皆の意向も揃ったところで本題に入ろうか」


 ミナス中将の言葉によってこの場にいる全員が彼女に注目した。


「どうやら上層部はホムンクルス研究所を破壊する任務を発注したらしい」


「随分早いな…。そもそもそいつらを泳がしたのは上だろ?」


「新人類の会が裏にいたんだ。それを放置する形になるのは体裁が悪いんだろうな」


「ちっ、虫の良い話だ」


 ミナス中将の話にノイ先生は毒づいていた。それも理解出来るというものだ。


 禁忌とも言える研究に対して全く行動を示さなかったのに自分に分が悪いとなると即座に対応したなんて文句の一つも言いたくなる。


「気持ちは分かるが先を進めるとしよう」


「ああ」


 ノイ先生としてもこれ以上口を挟んでも仕方ないと感じたようで簡素に返事をした。


「三日後を目標に破壊工作を開始する予定で、現在10人程度の部隊を編成しているらしい」


 これは異例中の異例だろう。このような上層部が表立って行う任務は少なくても2週間は要するはずだ。


 さらに、10人というのも数が少なすぎる。任務概要からしても4,5人の小隊を5個ほど用意してもよいだろうに。


「一つ手立てが遅れればこの国そのものが崩壊する事態なのだから彼らも相当混乱しているに違いない」


(それならばこの任務の杜撰さもわかるな…)


「だからこそ私達が介入する余地がある」


 彼女は続けて語る。


「任務にはクーナレド君を参加させ、他の者はバックアップに回ってもらう」


「え?俺がですか?」


 唐突に自分の名前が出され間抜けな声が出てしまう。ある程度仕事があるとは思っていたがまさかここまで重要な役目を渡されるとは露ほどにも至らなかった。


「俺なんかよりもっと実力がある人に行かせた方がいいんじゃないですか?」


「上は任務要項として少尉から大尉に絞って軍人を募集してるんだ」


「また何でそんな階級を狭めたんだ?」


 ノイ先生がした質問は俺も浮かんだものだった。


「さあね、それなりに上層部の考えは思い付くが完璧な答えは分からない。でも、これに該当するのはクーナレド君しかいないってことは分かるね」


 理由はどうであれ、他の人の階級を見ても俺しかいないのは事実だ。


「あ、あの!」


 唐突にカーマが声を上げた。


「その任務というのはもしかしてホムンクルスを殺害するということなのでしょうか…!」


「そうだね。施設の破壊の中にはホムンクルスたちも該当してしまうだろう」


「そんな…」


 その会話に鼓動が高鳴る。殺害、殺す…。死んだ人間を魔術によって兵器すると言われるホムンクルスとは一体どういう存在なのだろうか。


 ノイ先生からは詳しい話を聞けていない。ただ、これがもし人間と相違が無いほどに命を感じられるならば俺は正気でいられるのだろうか。


(もう慣れたと思ったのにな…)


 一瞬想像するだけでも吐き気を感じたり、冷や汗が溢れ出る。


 死を見るのが怖い。それだけで拒否反応が出てしまう。


「どうしてそんなことを聞くんだい?」


「そ、それは少尉が…!」


 カーマが真実を述べようしているのは理解できた。だか言わせる訳にはいかない。


 俺は震える手を自力で抑えて隣りにいる彼女の言葉を遮るように目の前に手を出した。


「カーマ良いんだ…。何も言わないでくれ」


「し、少尉…」


 カーマの目を見据え訴える。


(俺しかいないんだ。任せてくれないか)


(本当に大丈夫なんですか?)


(あぁ…)


 これまで相棒として活動してきたんだ。アイコンタクトでお互いの考えを伝えあえる。


「ミナス中将、俺がその役目を全うします!」


「良いんだね?」


「はい」


「…分かった」


 ミナス中将の目の前で会話をしないまでもカーマとやり取りをしたことは見られた。何か事情があることを汲み取られるのは必然。


 それでも承知したようで俺の上司は許諾をしてくれたのだった。


「それじゃあ集合地に向かいます」


 あれから2日が経った。身支度を終えた俺は現在特捜室の皆に別れを告げようとしていた。


「気を張らずに行ってこい」


 ノイ先生は男前に。


「あんまり無理しないでね!僕は後方で待機してるからいつでも頼ってよね」


 ローマリは心配そうに。 


「少尉…。どうかご無事で」


 カーマは不安そうに。


「クーナレド君、もしも辛くなったら自分に正直になってくれ。私は全力で応援するよ」


 ミナスさんは優しそうに。


「はい、行ってきます!」



 各々の感情を胸に受け止め、目的の地へと一歩を踏み出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る