第18話悪い知らせ
「…て…ねが……」
声が聞こえる。それは何者にも形容しがたいもので脳が理解するに至らないのだが、何故か無視をせずにはいられない。
「………………………」
しまいには何の言葉も残らない。遠くで誰かが必死な形相でこちらに訴えかけてるように見えるが何も届かない。
これは一体いつの記憶だろうか。ただ忘れられない、忘れてはいけない出来事だったのではないだろうか。
▲
カーテンから漏れ出す日差しが目の上を掠めていることが寝ぼけ眼にて感じとられる。
「あー、起きなきゃな」
とりあえず目を開けようとしても開かない。相変わらず自分は寝起きが悪いのだという事実を思い出しながら埒が明かないので体だけでも起き上がる。
「ふわぁ…ねっむ」
腕を伸ばして少しでも意識を覚醒へと向かわせる。その傍らにふと違和感を感じた。
(何か大事な夢を見たような…)
そんな疑問が湧く。この感覚は別に珍しくはないのだ。
本当に時々心にしこりを残すような夢を見るのだが一切内容について思い出すことが出来ない。夢なのだしどうせ大したことがないと頭では納得しようにも胸がザワつくのは止まらない。
今までの経験からすると朝にこんな体験をする日は大概ロクでもない。
どうやら今回もそれは呆れるほど当たってしまうらしい。
……
「実は悪い知らせがあるんだ」
女性陣が用意してくれた朝食が並べられたテーブルに皆で囲む。そして各々のペースで食事をしている最中にミナス中将がそんな言葉を発した。
俺とカーマがノイ先生に連れられてきた食堂にて彼女は重苦しい表情で書類が挟まれているファイルに向かっている状態で先に座っていたのだ。
その後もローマリが遅れて食堂に着くもミナスは軽い挨拶はするもののそんな顔を崩すことは無かった。
そんな様子から何かしらの事情は察することが出来ていたのである程度覚悟はしていた。
「昨日の深夜に我が特捜室の諜報担当から知らせが来たんだよ」
「西園寺からか、一体どんな情報が来たんだ?」
ノイ先生から見知らぬ名前が飛び出した。どうやら特捜室にはまだ俺が会ったことのない人物がいるようだ。
「ホムンクルス研究所の所有者が分かったんだよ。あの施設を運営・稼働させていたのは新人類の会らしい…」
「新人類の会…!」
微かにだが聞き覚えのある単語だった。新人類の会とは、魔法使いを新たに支配をするに相応しい人類であるとし、彼らの侵略を受け入れるとともに傘下に入るべきだと説いている宗教団体だったはずだ。
2,3年前くらい前に新興された組織であるにも関わらず世界的に信徒を獲得していき勢力を拡大している。これまで目立った行動をしていなかったため、軍は不干渉の姿勢を取っていた。
「新人類の会の理念から分かる通りにホムンクルスの研究は魔法使いに対する兵器であるどころか私達人類に仇を成すものであることが判明した」
「…そんな」
その驚くべき事実に皆の手が止まる。
「さて、この件について君たちの考えを聞いてみたいんだ。どうだい?」
そんな言葉に最初に反応したのはノイ先生であった。
「はぁー、理解出来んとしか言いようがないな…。確かに現状は絶望的であるが何もそこまでして人類に終止符を打つ真似をせんでもいいだろうに」
ルイ先生は、苛立った様子でテーブルを突つき不満を漏らす。
「僕は彼らの考えも分かるような気がします」
思わぬところから反論が飛んできた。
「任務で各地を放浪してて伝わってくるんですよ。魔法使いに敵わないんだと諦めてる人が住民の中で一定数いるんです」
「だとしてもわざわざ禁忌の魔術を用いてでも死期を早めんでも良いのものを…」
ローマリの発言に納得をする姿勢は見せることは出来ないようで食い下がった。
「きっとそんな判断をすることが叶わない程に追い込まれているのが今の現実です。よく分からないはずの宗教の甘言に身を任せてしまうレベルには」
「ぅーん、そんなものだろうか」
あまりにも気持ちが込められた言葉に思わずノイ先生がたじろいでしまう。
俺としてもフリーランスに働いていたことで様々な地点に赴いてきた。その度に理不尽と言える事件にいくつも立ち会ってきたのだ。
ただ生活をしていただけなのに。ただ幸せにいたかっただけなのに。そんな「だけ」すらも認められずに破壊されていった光景を何度も目にしてきた。
ローマリの意見からこんな光景がいくつも浮かび上がってしまうほどにこの世界は残酷が当たり前に滞在してしまう。
「俺もローマリが言いたいことが分かります。それでも非道な研究を許して良い理由にはならない」
「そうだね、クーナレド。僕達で何としてでも解決しなきゃ!」
「ああ」
ローマリも初めからこの事を言いたかったようだ。
「ったく、いつの間にそんな仲良くなったんだ」
ノイ先生は頭を掻きそうボヤくのであった。
「さて、カーマ君も何か意見が無いかい?」
3人の意見は固まり、ミナス中将は最後にカーマの意見を問う。
「勿論、私としては反対するつもりはありません。特捜室の意向に従うつもりです」
カーマは意思は揺らぐことが無いことを示すように力強く述べるのであった。
「なるほど、君たちの考えは伝わった。この件は特捜室が全力で当たることにしよう。」
ミナス中将は、持っていたファイルを置きこちらに顔を向ける。その顔から深刻そうな表情が緩和したことが把握できた。
「おっとっとその前に…。カーマ君とクーナレド君は特捜室に入ってくれる、で良いのかな?」
俺も今更に所属するかどうかの旨を伝えていないことを思い出す。ならば、答えは決まっている。
「俺は特捜室に入るつもりです。宜しくお願いします!」
続いてカーマも。
「私も特捜室に入ります。足手まといになるかもしれませんが頑張らせてください!」
こうして、俺たちは正式に特殊捜査室に所属することが決定するのであった。
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