第17話深夜の来訪者
遥か彼方から鈍い音が聞こえる。そして、何かが軋む音も聞こえる。
唐突にそんな音が聞こえたものだから夢見心地な気分が少しずつ消えてゆく。ただ、頭では睡眠を望んでいるのか一切眼を開くことが出来ない。
音は徐々に大きくなり俺のすぐそばまで近づいてくる。何事か興味はあるものの全く動く気になれないでいた。
これが野外ならば即座に飛び上がるものなのだがその音の原因であろう人物からは邪気を感じることが無いので優先順位が狂ってしまう。
続いてシーツを捲られモゾモゾと横になったことが感覚から判断できた。
(…!?)
その瞬間一気に意識が覚醒した。同じ布団に寝るなど一般的な事柄と大きくかけ離れたものだ。
生憎俺は外側に体を向けているためこの人物が一体誰なのか知ることは叶わない。
ただ、候補があるとしたら特捜室の二人かカーマとなる。
(誰だとしても非常にマズイ…!)
思考が纏まらないままに突如ソイツは俺を抱くように体ごとくっつけてきた。華奢であった、俺よりも大分体格が小さいことが肌全体で感じ取れてしまう。
頭がさらに回転しオーバーヒート一歩手前になる。とにかくこのままでは俺の方がどうにかなってしまうことが明白な事実だ。
「だぁっ!」
無我夢中にその人物ごと起き上がる。
「キャッ」
短い悲鳴が聞こえ、微かに狼狽しつつ逃さないように肩を両手で掴むことにした。
掴んだ肩はか細く少しでも力を加え間違えたら壊れてしまうのではないかと内心はヒヤヒヤしてしまう。
「えっ、えっえっ?」
何故かソイツは戸惑いを表したような言葉を漏らしている。それに対して俺も疑問を感じてしまう。勝手に部屋に入ってきたのはこいつだろうにこの態度は些か奇妙である。
ようやっと暗闇に慣れたのか眼前の光景を捉えることが出来てきた。薄ぼんやりと顔の輪郭がハッキリしてくる。
「え?」
今度は、俺が混乱する番のようだ。ソイツは、天然パーマなのか髪が短いながらもクルクルと絡まっておりさらには薄いフレームの眼鏡をかけており、加えて小柄である。
ただ、顔つきがやや丸いながら何処か力強い目を持っている。
それ以外にも無数に感想が浮かんでくるが端的に言葉を表した方が良いだろう。
見たこともない知らない男だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁー!」
「うぇぇぇぇぇぇー!」
結果、思わず叫んでしまった俺に呼応するように男も叫び、近所迷惑甚だしい状況に陥るのであった。
▲
「ぅぅ…、ごめんなさい。部屋を間違っちゃってました!」
男は深々と頭を下げ謝罪をしている。俺としてもどう反応していいか分からずて困惑してしまう。
「いや本当大丈夫っす。唐突に泊まってきたのは俺達なんですから」
とりあえず大体の事情を理解していくことにしよう。
「えっと、貴方はこの特捜室の構成員とか何ですか?」
「う、うん。僕はローマリ・グレイシス少佐です。ここに1、2年くらい前からお世話になってるんだ」
少佐か。見た様子では大して俺と年が離れていないにも関わらず階級は大分上のようだった。
「なるほど分かりました。じゃあ俺も名乗りますね、クーナレド・アシュレス少尉です。よろしくお願いします。」
「うん、よろしくね。後さぁもしかして年齢近かったりするのかな。僕は24歳なんだけど」
「俺は22なんでそうですね」
「そうなんだ!」
俺の年齢に喜んだようでローマリ少佐はパァァと花が咲くかのように表情を明るくした。
「なら、互いに敬語は辞めて呼び捨てにしようよ。できればもっと仲良くなりたいからさ!」
そんな提案とともに手を差し伸べてきた。
「分かったよローマリ。これからよろしくな」
もちろん俺としては拒む理由が無いので握手に応じるのであった。
「うん、クーナレド!」
「ああ」
そのあまりに友好的な様子に思わず感心をしてしまう。同年代とはいえこれ程までに交流を持とうとするのは最近では珍しい。
いつ死ぬとも分からない情勢で友人を多く持とうとするとその分悲しみを背負うことになる。
ならば適度に仕事として境界線を設置する者が軍人には多くなりまともな友人関係など無いに等しいのだ。
「じゃあ夜も遅いし僕は部屋に戻るよ。明日もまた話をしようよ!」
「ああそうだな。おやすみ、ローマリ」
「うん、じゃあね!」
ローマリは別れの挨拶を済ますと小走りに部屋を後にするのであった。何処か懐かしい空気感を味わいつつベッドに戻るとまた夢の世界へと向かう。
こういう結末も良いのだが相手が女の子だったというのも良かったなー、と冗談混じりに思うのであった。
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