第15話ミナスと結界
「お待たせしたね。では改めて話をしよう……って、なんでこんなに微妙な空気感なんだ?」
ミナス中将が身だしなみを整え終えてから室長用らしきデスクに座って話し出そうとしいた。だが、ソファの件で生じてしまったこの空気感に気付いたようだ。
「ぷくく…なーに気にしなくて良いぞ、ミナス」
「そうですね、話をしましょう!」
ノイ先生は面白がってるようで笑いを噛み殺しながら先を促した。俺としては有り難い誘導なのでそれに乗じるのが得策だろう。
横をちらりと覗くとカーマが微かに頬を赤らめているのだが、とにかく気にしないことにしよう。
「?まあノイ君がそう言うならば…」
怪訝そうな表情を浮かべながらも了承をしたようで内心安堵するのであった。
ただ、未だにノイ先生が口を抑えてニヤニヤしてるのが非常に気に入らないのだが、それも無視だ。
「あーあと、ゴメンね?格好悪いところを見せてしまって」
ミナス中将に謝られ少し前の光景が蘇ってくる。噂では凄腕の軍人だ完璧超人だなんてもてはやされたものばかり聞いてきたので意外と言えば意外ではあった。
「疲れてたりしたらずっと寝ていたい気持ち分かりますから大丈夫ですよ」
中将といえど人間であるからな、心配はすれど軽蔑なんてする訳がない。
「私も同意見です。むしろ突然来訪した私達が悪いんです」
カーマも賛同したようでフォローに回ってくれた。
というのにノイ先生とミナス中将の顔は複雑そうであった。
「おい、ミナスさぁ無垢な後輩たちに言われてるぞ。お前疲れてたのか?」
ノイ先生はジトーと半眼にし責めるように問いかけた。それに対してミナス中将は、目を泳がせ挙げ句の果てには聞くに堪えない口笛すらし始めた。
「…そうだね。ちょっと書類整理とか忙して参ってた所なんだよね」
言い分はマトモであるはずなのに挙動が不振過ぎてもはや俺たちでさえジト目になってしまっていた。
「…」「…」「…」
「…ぅ」
三人分の冷たい視線は余程効果があったのか下を向いて冷や汗をかいていた。
「ごめんなさい。仕事をせずに徹夜でお酒を飲んでいたらこんな時間まで寝てました…」
「中等:
ノイ先生はおもむろに室長用のデスクに近づき魔術を用いた。
魔術を行使した途端にパリィンとガラスが割れるような音がするとむせ返るような異臭がミナス中将を中心に繰り広げられた。
「結界魔術まで使って匂いを消すのは大したものではあるな」
ノイ先生は、ほとほと呆れたようにため息混じりに呟くのであった。それを受けてミナス中将はただ恥ずかしさのあまりか机に突っ伏して頭を抱えていた。
「ば、バレないように酒を飲む前から防臭結界を張ったのに…。しかも、隠蔽魔術まで混ぜたのにー!」
「流石にミナスだけあって無駄に精度の高い結界ではあったぞ。ただ一つ過ちがあるとしたら幼馴染であるノイがそんな小細工に気付かないわけないだろ」
「うぇぇーん!」
(…え〜)
俺とカーマは、何も言い出せなくて鼻をつまみながら心の底から引いているのであった。
どうやらミナス中将は噂とは真逆で駄目ニンゲンタイプらしい。と、冷静に解析するのもバカな話である。
ただ俺から一つ言わせて欲しいのはその防臭結界はそのままにして欲しかったな、ここ地下だから窓なくて逃げ場が無いんですよ。
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