第14話地下とソファ
「な、何でまたこんな所を拠点にしたんですか…」
目の前に広がる廃墟同然の館はあまりに衝撃的な光景でカーマと二人立ち尽くしていた。
「噂が噂を呼び一切人が寄り付かなくなったんだ。ノイ達の活動的にはそれが利点でな」
淡々と説明するノイ先生に若干呆れてしまう。幽霊なんだのを信じてはいないがここまで憮然とされた態度をされてはこちらが恥ずかしくなってしまう。
「ほら行くぞ!特捜室は地下にあるから割と綺麗だから安心してくれよ」
そう告げると振り向きもせずにズカズカと歩を進めるので慌てながら後を追うのであった。
ノイ先生は館の扉に入る訳でもなく迂回して庭園の方へと向かう。俺は訝しく思いながら黙って従うと彼女は庭にポツンと佇む大樹の前で足を止める。
「どうしたんですか?」
カーマも疑問に感じたようでノイ先生に声を掛けるが彼女は見てろと言わんばかりに目線を送るだけだった。
そして、ノイ先生は大樹に左手を添えると呟く。
「解呪」
その言葉と同時に大樹は輝き幾度にも絡み合った魔術回路が浮かび上がった。
暫し光が当たりを埋め尽くしていたら突然大樹が消え失せ地下に繋がるであろう白い階段が出現した。
「それなりに機密事項を扱っているからな。これくらいの仕掛けはあるものだよ」
頭では分かっていてもここまでのカラクリを弄している事から特殊捜査室が文字通り特殊であることを肌で感じる羽目となった。
▲
長く長く続く階段を降りていると遠く先から薄ぼんやりとした光が目に映る。
「もうすぐ着くぞ」
ノイ先生が言ったように光が全ての空間を照らし特殊捜査室が露わとなる。
「見たところ…普通ですね」
感想はそんなものであった。あんな仕掛けをしていたのだから人間が解剖されていたり無骨な武器が辺りを埋めていたりとしているのではないかと思っていたがそんな事はない。
デスクが6つ。その内の3つは書類が机を埋め尽くさんばかりとなっており、棚らしきものにもファイリングされたものが幾つもある。
それは何処の軍部でも見かけるようなありきたりな光景だ。
「人の死体がゴロゴロあるとでも思ったのか」
「いや…まさか…」
ノイ先生が軽口を叩くが若干当たっておりバツが悪い。
「普通…ですね」
「だな」
こんな風にカーマと箸にも棒にも当たらないようなやり取りをするほど拍子抜けなものだ。
「ミナスー!ミナスー!帰ってきたぞー!」
ノイ先生は、真っ直ぐと進み奥にある部屋の扉を力強く叩き呼びかけていた。
「うるさーい…。ふわぁ、ホントにノイ君は礼儀がなってないんだから」
彼女の呼び掛けに呼応して扉が静かに開く。そこから寝癖が悲惨なことになっている長髪の女性が出てきた。
それはもう盛大な欠伸をしながらノイ先生に小言を言う様はなんとも情けないものである。
「あーれ?知らない子達がいるー。おはよー」
女性はこちらに気づいたようで力無く挨拶をした。
「えっと…。おはようございます…?」
「なんで疑問系?」
(そりゃ今は朝を通り越して若干夕方に近いからな…!)
心のなかでツッコミを入れる。仮にも中将であろう人にきやすい態度は忍ばれる。
まあ、ノイ先生は別だが。
「お前なぁ。一回頭だか顔だかを洗ってこいよ」
ノイ先生も大分参ったようにミナス中将に対して指示をした。
「うん、それが良さそうだ。さっきから頭がスッキリしてなくぶっちゃけ気持ち悪いし」
「ならとっとと行ってこい」
ノイ先生はミナス中将を足蹴にして元々いた部屋に追い返した。ミナス中将はブツブツと文句を言いながらも大人しく従うのであった。
「あ、あれがミナス中将なんですか?随分とイメージと違いました」
カーマが聞こえないようにか小声で俺に訊ねてきた。
「…いや前あった時はキリッと凛々しい人だったのだが」
「仕事モードだとそう見えるだろうな」
どうやらノイ先生にも話が聞こえたのか口を挟んできた。
「アイツはオンオフがこれでもかっていうぐらいハッキリしてるんだよ。普段のミナスはさっきよりはちょっとマシぐらいだな」
「なるほど…」
ノイ先生とミナス中将はかなり親しい仲のようで全てを理解してるかのように話した。
「おっとノイもいつもの格好になるのと金を返さなければならなかった!すぐ戻るからそこら辺に座っててくれたまえ」
突然手を叩いたと思ったら早口に事情を伝え小走りで右側にある部屋とかけていった。
結局見知らぬ場所で二人きりへとさせられてしまった。
「少尉、ここにソファにありますからここに座りましょう」
「あ、ああ」
何もすることがないため二人してソファに座り込むことになった。
頭が追いつかない中で指示に従ってしまったがある事に気付く。
(距離近くね?狭くね!?これ一人用のソファだろ!)
少しばかり大きめのサイズのソファのためか二人を収容することが可能であったが寧ろそれが仇とも言える。
一度座った手前、距離が近いから離れようと言えない。基本俺小心者なんだよな…。
ふとカーマの様子を見ると俯いて耳を赤くしていた。
(お前もなのか、カーマ!)
どうやらカーマもこの事態に気付き恥ずかしがっているようだ。
それもそのはず。先程から肩だったり手だったりと体がちょくちょく当たっている。当たらないように少し体勢を変えても別の場所が触れ合う。
この狭さでは必然とも言える。
「しょ、しょ、少尉…。せ、せ、…切ない…ですね」
(何が?!)
きっと狭いと言おうとしたがカーマから提案した手前言いづらくなり適当に別の事を喋ったのだろう。
(ってこんだけカーマの事を説明出来てるなら俺がなんとかしろって話だよな)
「か、か、カーマ…。は、は、…儚い…な」
(だから何が!?)
やばい、俺もカーマの緊張が移ったのか言い出せない。会話も意味分からんことになってるし!
暫く二人して顔を赤くしたまま俯いているとノイ先生が着替えを終わり部屋から出てきた。
「何してるんだ?お前ら」
ノイ先生は羽織っている白衣に手を突っ込んだままジト目で俺たちを咎めるのだった。
「「は、はい…」」
その言葉に応じるように二人してソファから立ち上がるのだった。
(あー…。気まずかった…)
何もしてないはずなのにここに来る前より遥かに疲れている俺たちであった。
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