第13話ロージランド王国

「な、なんでそんな方法を上は黙ってるんですか!」


 カーマは、ノイ先生が語ったホムンクルスの実態に意義を唱えた。至極当然だと思う。それは禁術と呼んで差し支えない程の所業なのだから。


「それが色々と複雑な事情があるのだよ…。鷹の死を覚えているかい?」


 鷹の死…。12年前イーガルタウン終末事件の裏側で同時多発的に発生したものだ。何者かが王国最高決定機関「鷹の脳」を一夜にして全員殺害した恐ろしい事件である。


「ああ、もちろん。あんなの一生忘れられませんよ」


 俺の答えにバックミラーの中に映るノイ先生は首肯していた。


「あれのせいで未だに上は真っ当な決断を会議する仕組みが作られていないんだ」


「ということはロージランド王国魔術軍部の最高司令は夜将の一人であるヒスイ大将だからその人全部に命令権があるってことですか」


 この世界は5つの国で構成されている。昔はそれなりに対立もあったが人類共通の敵である魔法使いの出現により協力する必要が生まれた。色々な協定の末に統合軍が設立することになったのだ。


 それによって、指揮系統を単純化するために各国の大将は一人だけと設定された。そしてその五大将を総じて夜将と呼称することに決まったのだった。


 ただ他国は鷹の脳のような機関があるそうで一人によって支配される事態は防げているがこの国ではそれが無いという話だ。


 仮にヒスイ大将が暴君であったら誰も制御できる人物がいないという現状は相当まずいだろう。


「制度上はそうなるのだよ。ただ、この国は王という席を設けている。さらにヒスイ大将殿は戦いにしか興味がなく他に対しては興味が薄弱なんだ」


 頭の中でこれらの事実を整理すると答えが一つ導かれた。


「ロージランド王国の実態として王による独裁政治が成り立っているわけですか」


「そんな話聞いたこともありませんでした…」


 カーマの言うとおりなのだ。俺たち一般の軍人の目線からすると割と自由に活動出来ているのでかなり驚愕な事実である。


「王は大将殿の相談役として助言をしているように体裁を保っているんだ。その実は傀儡と言える事態なのに周りは文句を言えないでいる」


 大将と少なからず関わりのある将校ゆえに認知できた問題なのだろう。


「だから非道であるホムンクルス研究が見逃され続けてきたんですね」


「王は王なりに思考をして決断したのだと思うぞ。ただ誰も考えを否定する人間がいないせいで日を追うごとに迷走した先に過激な戦略を取り始めている。誰が悪いわけでも無いんだ」


 ヒスイ大将そのものを知らないから何とも言い難いが相当最高指令者には向かない人物であるように思える。ただ、軍人に強さを要求され続けてしまったことからこのような問題が発生してしまったのだ。



 強き軍人は知略と戦闘を兼ね備えているという偏見がこんなシステムを作り上げたのだとしたら浅知恵も良いところだ。



「他国は議会という存在が機能しているからこれまで問題なかったんでしょうね」


「ああ、うちは異端だからな。故に特殊捜査室としては少しでもこの内政を改善させるために行動をしている面もあるんだ」


 初めての出会いから想像も出来ないほどのノイ先生の真摯な態度に気圧されてしまう。


 国を想うその姿は正に理想の軍人のようにさえ感じる。


「私は、ホムンクルスの研究を阻止すべきだと思います。今の情勢がこんな事態を招いたのなら直ぐにでも一番の被害者になってしまう少女達を助け出さなきゃ!」


「俺もカーマに賛成だ。ノイ先生何か手を貸せることはありませんか?」


「……」


 ノイ先生は俺たちの意見に腕を組みながら考え込んだ。時々悩ましげなうーんといった声が漏れていた。



「…そうだねぇ。とりあえずミナスに相談するか。もうすぐ特殊捜査室に着くしな」


 結局何も思いつかなったようでノイ先生は妥協案をだした。それとともに目の前にある建物を指さした。


「あれがノイ達の拠点なのだよ!」



 指差された建物はそれはもう見事なものだった。ロージランドの魔術軍部本部と遜色ないほどの敷地と構造物を有している。



 ただ一つ気になる点があるとするならば。


 その建築物は半分ほど破壊されており、残った部分も蔦つたに覆われていることだ。


「…あ、あれって幽霊屋敷か何かじゃないんですか!?」



 ノイ先生は惚とぼけたような表情をした。なんだその顔。


「まあ元々の本拠地だからなー、少々汚くてもあの事件を思えば当然だろう!」



「はぁ!?」


 そんな曰いわくありすぎな物件を占拠してる連中と手を組もうとしているのかと思うと先行きが不安すぎる今日この頃であった。

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