第7話ナーランド市街地戦➂

「上等:剣王!」「【ウィンディスト】!」


 カーマの元から離れると共に剣を抜き魔術を起動、さらに移動速度上昇の付与を掛ける。


「【サーチスト】」


 範囲気配探索を付与する。


「見つけた」


 ここから200m先に一体、感覚的にそれほど強い魔力は感じ取れないため大した強さではないだろう。


 そう安堵した矢先、突如気配があちらこちらに急増する。本格的に召喚魔法が機能し始めたのだろう。


 考えている暇はない。そう判断して効率など度外視に探知した場所に駆け寄り剣で斬る。


 また見つけ斬る。斬る。斬る。斬る。


 ▲

 何体殺したのだろうか。二桁を超えた程から数えるのを止めていた。その甲斐もあってか見渡す限りには魔物の姿は見えない。


 今更ながらに多くの命を奪ってしまったという事実から手の震えが止まらない。更に、今まで隠してた魔法も散々使ってしまったことに後悔する。


 ただ、殆どの住民が死んでしまったのか何処か部屋の奥にでも隠れていいるのかで俺の姿を見られることは無かった。


 といっても一般人はそこまで戦闘に知識がないから魔術と魔法の違いは分からないだろうから杞憂に過ぎない。主に心配していたのは軍の者なのだが、生憎生きている同僚は居ないようだった。


 俺とカーマは随分と運が良かったのだと他人事のように思い至る。


「ッ!!」


 頭に上っていた血が徐々に冷えていき状況を分析していた最中、突如寒気がした。


 行使されていたサーチストに反応があったのだ。敵は一体。大したことないはずなのだが寒気や震えが止まらない。魔力の規模や質が他とは異なりすぎている。


 目を背けたくても頭の中から警鐘がけたたましく鳴り響く。


 反応があった後方へと恐る恐る振り返ると異形ではあるが人間のようなものがいた。


「ガギュゥ ガ 」 


 黒き靄もやを身に纏い骨格があるのかも分からないほどの軟体のような動きをした化け物がいた。目が6つも7つもあり口は見当らないのに奇怪な鳴き声だけが漏れている。


 気持ち悪い。思わず吐き気を感じ口に手をやる。


 以前奴については書物で知識を得ているから頭では存在を認識しているのだが他の魔物とは明らかに異なる風貌に困惑を隠せない。


「あ、あれはギガス・ファランドールなのか…!」


 あり得ない。支部長からはメガス・ファランドールの目撃情報であったはずなのにそれの上位種ではないか。


「メガス級はまだ対処出来た。だけどアイツはギガス級。適正としては大佐クラスが相手するレベルじゃないか!」


 思わず愚痴が溢れてしまう。必死に攻略法を思い出そうとするが何も出てこない。


(当然だ…。これまで奴と対峙したケースが非常に稀なんだ。攻略を確立するにもサンプルが少ない)


 無限に思考を回そうともゴールに着くことはない。ギガス級とはそれほどの代物だ。


「ガガがぃ!!!!」


「来るのか!」


 ヤツは突如騒音のような鳴き声をしたと思ったら激しく振動をし始めた。どうすれば良いのか分からず剣を突き出し臨戦態勢を取るしかなかった。


「ガギャァ!!」


 急に体が膨らみ弾け飛んだ。すると、飛散した7つの物体はうねうねと動きながら先程の様な人型の形状へと変わる。


「この7体を相手にしなきゃなんないのかよ…」




 嫌な想像が脳を霞める。7体になったってことは一体がメギス級に戦闘力が下がるのではなく個々一体一体がギガス級の能力を持つのでは無いかと。


(まさかな、ハハ)


 そんな馬鹿げた思考に乾いた笑いが浮かぶ。頭ではそんなはず無いと一蹴しているのに全身から脂汗が吹き出る。


(でも)


 ならば、さっきからサーチストで感じているこの感覚はどういうことだろうか。


 ずっと頭の中のセンサーでは同じ反応があるのだ。感じ取っただけで寒気がした凶悪なまでの魔力規模がある。




 それが7つも。


 つまり、ヤツは本体と同じ性能を持つ化け物を一瞬にて6つも増やしたのだ。


「そんなの魔物だからって説明つかないだろうが!」


 思わず吠えてしまう。あまりに無情な現実に。


「あの時カーマと一緒に逃げれば良かったのかな」


「いや、違う。逃げれば折角助けられたであろう命まで捨ててしまうんだ」


「なら、どうする。戦うしかないじゃないか。軍人として、男として、カーマに良い所を見してやろうじゃないか」


 次々と言葉が溢れる。虚栄かもしれないが言葉で武装するしかない。心で負けてしまえば何も出来ずに殺されてしまう、それでは意味が無いのだから。



「来いよ、化け物!覚悟はできた!」


 ならば、吠えるしかない。それは負け犬の遠吠えでしかないかもしれないが一丁前に立ち向かう。




 それが俺に残された最後の武器なんだ。


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