第6話ナーランド市街地戦➁

「…な、なんでクーが魔法を使えるの?」


「それは…」


 不安からか瞳が揺らめきながらもこちらをひたすら真っ直ぐに向くカーマに戸惑ってしまう。


 答えてもいい。ただ、それでせっかく再会した幼馴染との関係が崩れてしまうのではないのかという迷いもある。


 その迷いによって躊躇いを感じ暫し冷たい空気が流れる。


「ごめん、今はそんな場合じゃないよね」


 空気を察してか俺に逃げ道を用意してくれた。正直安堵をしている自分がいる。


「そ…そうだな。きっとアイツラは召喚魔法か何かを行使してこの街に魔物を解き放つつもりだろうな」


 一体どれ程の規模かは分からないが間違いなく街は壊滅だろう。少しでも態勢を整えて臨むしか方法はない。


 そう息巻いていた俺に対してカーマは思いもよろぬ提案をしてきたのだった。


「あ、あのさ!」


「どうしたんだ?」


 突如声のボリュームを上げたことに驚くも冷静な風体で返す。


「私きっと馬鹿なんだと思う。でも…でも!軍人失格だと思うけど聞いてほしい!」


「あ、ああ」


「魔物の大群なんかに勝てるわけないんだよ。だからさ、私と何処か知らない所まで逃げよう?」


「え?」


 声をどもらせながらも伝えてきた考えに戸惑ってしまう。確かに、現状の問題として勝てるはず無いのだ。いくら俺が魔法を使えるとしても魔力が切れてしまってはただの一般人だ。魔術も魔力の消費量が少ないとはいえ無限ではない。


 諸々の事情を考慮してもカーマの言う逃げの選択は決して間違ってはいない。


「もう軍には戻れないかもしれないけどさ、きっと私達だけの居場所はあるよ。大丈夫、私とクーがいれば百人力だからさ。一緒に…頑…張ろう…よ…」


 出てくる言葉は皆前向きなものだった。ただ、カーマは泣いていた。それはもうボロボロに。 


「今がさ、波乱の世だとしても平和に暮らせる場所はあるかもしれないな」


「だよね!」


「でも、ゴメン。ここから逃げることは出来ないよ」


「な、なんで…」


 希望の未来はあるかもしれない。カーマと一緒なら何処でも楽しいだろう。実際俺の支えとなっている思い出にはいつもこいつがいてくれた。


「だってさ、今も悲鳴が聞こえて来るんだよ。怖いよ、助けてってさ」


「き、聞こえない、きこえないよぉ!」


 そんな訳ない。きっと、親とハグレてしまった子かもしれない。瓦礫で足が潰されながらも意識がある人かもしれない。尋常ではない被害があったにしろ、生きている人間はいるんだ。


「この声を無視してしまったら一生悔い続ける。そんな未来になるぐらいなら死ぬまで人を助けたいんだ」


「ぅぅ、クーだけズルいよ。なんでそんな強くいられるの」


「俺を拾ってくれた師匠のおかげかな。いっつも説教じみた言い方でちょっとウザかったけどいい人だったからさ。俺もそんな風になりたいなって」


「ぅ、ぅ、バカ、バカ」


 おどけた様に言う俺に対して気に食わなかったようでそっと近づき胸を叩いてきた。


「【スティルス・ティンク】」


 そのままカーマに存在隠蔽の魔法を付与した。


「これから事が終わるまで決して言葉を発さないでくれ。喋らない間は誰にも気取られない。敵にも味方にも」


 驚きから口を開こうとしたが無理やり手で口を塞ぐことにした。


「!」


「頼む、こらえてくれ。また掛け直すのは魔力が無駄に消費されてしまう」


「!…(コク)」


「ありがとう。じゃあ行くよ」


 また、カーマは涙を流し嗚咽が出そうになったのを自分で口を閉じて堪えている。そんな必死な様子に笑みが漏れそうになるが怒られそうなのでこちらも堪えることにした。


「また、会おうな。その時はちゃんと全部話すからさ」


「(コクコクコク)」


 何度も頷くカーマを面白く思いながらもこれを最後としまた振り向くは止めた。


 少しでも戦闘へと思考を傾ける。




 これから始まるのは生死を掛けた命の取り合いなのだから。

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