第5話ナーランド市街地戦①

「カ、カーマなのか…?お前が助けてくれたのか」


「うん、軍服を着てたから助けなきゃって」


 目を潤ませ唇を震えながら幼馴染みであるカーマは答えてくれた。


 久し振りに会った幼馴染みは成人の女性でありながら何処か昔の面影を残しており思わず感傷に浸ってしまう。


「ありがとな。そうかカーマも軍人になってたのか」


「ある人が私を拾ってくれたんだ。その人が軍人だったから憧れてなったの」


 話してる最中により瞳が揺れている。きっとカーマも苦労をしてきたのだ。


「私のことは別にいい。クーは今まで何してたの?」


「お前と同じだよ。拾ってくれたんだ。それで何とかイマまで生きてこれたってわけ」


「そうなんだ…」


「ああ」


 あまりに時が経ったせいか居心地の悪い空気が流れる。話題はいくらだってあるだろう。ただ、踏み込んではいけない領域がきっとあるはずだ。


 それが何なのか互いに分からないので探り合いのような会話となってしまう。それに、ここは戦場だ。仲良しこよしをしてる場合ではない。


「あーと、この惨状はどういうことか教えてくれないか」


「いつもと変わらない。魔法使いの破壊行為」


(予想通りだな)


 このような事態は珍しくはない。ただ、現在のナーランド市街地は臨戦態勢を整えていた。それなのに一切の予兆なく侵略を許したなどあり得ないのだ。しかし、今はその事を考えていても仕方がない。


「そうだ!まだ魔法使いは彷徨いてるのか」


「それは大丈夫、少しの人員を置いてるけど大半はこの街を去ったから」


「それでも油断は出来ないな。…あーと、これまでカーマは何してたんだ?」


 カーマは俺の質問を聞き顔を下に向けてしまう。


「…わ、私はずっとここに隠れてた。怖かったんだ。何も出来ないって思い知らされてずっとここに」


 か細い声で心情を独白する。それに対して非難する事など出来ない。数は分からないが短時間でこの有様なのだ。


 2つの支部の軍人を壊滅させ、中心部にある殆どの建物を全壊させるほどの戦力を投じたに違いない。


「俺はむしろお前に助けられた身だ。感謝はすれど責めたりなんてするもんか」


 冗談めかしてカーマのことをフォローすることにした。


「クー…。ありがとう」


「ああ」


「さて、そろそろ魔法使い共は居なくなっただろうから生存者の保護に回ろうぜ」


「うん、そうだね!」


 少し明るい顔をしたカーマを見てホッとする。


「その必要はありませぇーん。皆死んじゃいますからぁー」



「え!?」「誰だ!」


 突然声を掛けられ振り向くと気味の悪い笑みを浮かべた女と部下らしき男2人がいた。


「この辺に軍人のような男がいたという報告を受けましてねぇ。来てみたらビンゴ!優秀な部下を持つと有り難いものですねぇ」


 体をゆらゆらと柳のように揺れながら饒舌に語ってる様は異様の一言だった。明らかに他の魔法使いとは一線を画しており緊張からか喉が乾いてしまう。


「失礼失礼。お喋りが過ぎましたねぇ。さてさてさーてぇ、そろそろ死んじゃってくださいょ。君たちお願いしますねぇ!私はゆっくりと待っておりますぅよ」


「「了解」」


 部下らしき男たちが前に出ると同時に女はあぐらで地面に座り込む。


 準備を整え、立ち向かおうにも一刻の猶予もない。彼らが魔法を唱えた瞬間に俺たちは死ぬ。それに対して魔術を発動していては間に合わない。…使うしかないか。


 油断している今がチャンスだ。


「【ウィンディスト】!」


 魔法で移動速度上昇を付与すると共に駆け出し剣を抜く。


「【アップ・フレイム】!」


 敵の元に瞬時に到着し、剣に炎を付与をする。

「ぐあ!」


 部下の男たちは抵抗も出来ないまま斬り捨てられる。だが、ここで一拍置くとあの女と真っ向から挑むことになる。そんなことにはさせない。


 男を倒したそのスピードのまま女の心臓を貫く。そして、剣を抜き元の場所に引く。


 少し遅れて女から血が吹き出し倒れ込む。


「…ひ…ひひ、…ひゃひゃ、ひゃーはっはっは!まさかゴミと思っていた奴にこんな痛手を追いますかねぇ!しかも魔法まで使われちゃってますぅー」


 血が止めどなく溢れているにも関わらず、先程と一切変わらないまま喋る。


「なんで死んでないんだ?って思ってますねぇ貴方!分かりますよぉわかります。でも残念ですねぇ。ワタクシ不死身なのでー死にませーん!」


「そんな馬鹿な話あるかって思ってますよねぇ!あるんですぅ!それでも痛みは味わっちゃいますからぇ!ここは撤退させてもらいますかねぇ!」


 一人で散々喚く姿に震えが止まらない。あまりにも通常の人間とはかけ離れた姿を目撃しどう対処すればいいのか判断が揺らいでしまう。


「では、ワタクシ去りますねぇ!あと、ワタクシが消えて暫くしてから大量の魔物が北門から雪崩れ込むので気をつけてくださいねぇ!また会えるのを楽しみにしてますよぉ!次に会ったらー」


 女は、溜めに溜めて言い放った。 


「クソガキぃ!テメエをぶっ殺してやるよぉぉぉ!」


「っ!!」


 これまでと同じ薄気味悪い笑顔を浮かべていると思ったら豹変し、おぞましい声色でこちらを罵ってきた。


 そして、何事かを唱えると姿が霧のように消えていく。


 その様子に動揺しながらも女が喋った言葉が気にかかる。


「なんなんだよ一体。あ!か、カーマ大丈夫か」


 奴に夢中で今更ながらカーマを気にかけた。カーマの方に顔を向けると、彼女は俺の顔を真剣に覗いていた。


「…な、なんでクーが魔法を使えるの?」


 躊躇がちにおれに質問を投げかける。


「あっ…」


 失念していた。つい魔法を使ったところカーマに見せてしまった。


 当然な質問である。普通、俺たち通常の人類は魔法を使えない。


「それは…」


 幼馴染からの不審感、魔法、魔物の襲来。問題は山積みである。 

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