第4話新米軍人

「では、君には市街地外周部南門にて警備をお願いするね」


「了解」


 和らげな表情を浮かべた上官から新人に相応しい命令を受けた。


 あの事件から10経った。俺は現在統合軍の新米軍人として初めての任務を受けていた。


 それまではずっと師匠の元で研鑽を励んでいたため外の交流が一切ない状態で少し緊張気味に上司と会話していた。


「何か異変を感じたらすぐに通信魔術具を用いてこちらに連絡をくれれば良い。そしたらすぐに駆けつけるからさ、そんなに気張らなくていいよ」


「了解!」


「ちょっと人手不足で君一人に任せちゃうけど頑張ってね。じゃあ期待してるから」


 優しげに対応してくれた上官に敬意を払いながら単調な返ししか出来ない自分に少し嫌気が差す。


 ▲

 現在ナーランド市街地にて幾ばくかの緊急体制が取られていた。2日ほど前に「メギス・ファランドール」が目撃されたのだ。


 それなりに上位の魔法使いにしか召喚出来ない種族のため、この体制にも頷けるというものだ。


 何処からか逃走したのか、それとも視察として借りだしたのか一切の予想がつかない状態のため街の住民は不安に怯え家に引きこもっている。さらに、2つの支部を導入しているのに軍も全く情報が掴めずやや現場は混乱気味になっている。


 それでも人員を少しでも稼働するために市街地のあらゆる場所に軍の者を配置している。


「とはいっても、此処ここには出てこないだろ」


 俺が配置された南門という場所は、一応街の出入り口ではあるものの目の前すぐに大きな川があり、魔法使いが侵略するには合理的とは思えない所だ。


「新米だからこんなもんか」


 思わず、退屈すぎて独り言も多くなる。軍に入隊する際に受けた試験によって他とかけ離れたスコア出した上にどうやら死んだ親父が軍で准将なんて階級を与えられており、さらにはとんでもない功績を上げているようで、かなり期待され向かい受けられたために少し任務との格差に辟易する。


 別に過酷な戦いを望んでいる訳ではないが人類の為に少しでも貢献したいという英雄願望が燻ぶってしまう。


「お前はとてつもない才能を持っている。魔術師としても魔法使いとして一流になれる資質がある。それだけに驕るな。死ぬぞ」


 師匠の言葉がフラッシュバックする。度々師匠は己を律するように俺に説いてきた。師匠の想いを無駄にしないように身体だけでも背筋を伸ばした。


 それと共に師匠について考えを巡らせる。


 「生きる術は教えた。後はお前の人生だ。」短い言葉を添えた置き手紙を最後に師匠は俺の前から消えてしまった。一ヶ月程、真剣に探したが少しの手掛かりを見つけることさえ叶わず結局あまり考えも無しに軍へと入ったのだった。


 これで良かったのか分からず仕舞いでここ最近は堂々巡りとも言える思考をしている。


 また、終わることのない考え事を始めようとした最中、突然爆発音が聞こえる。


 街中で悲鳴と一緒に緊急シグナルが懐に装着したバックパックに入っている通信魔術具から鳴り響く。


「一体何なんだ!」


 愚痴ぐちを溢しながら急いで市街地中央にある対策本部を敷いている仮説施設に向かう。 


 ただ、南門から中央部まではかなり距離がある。このまま急いでも約一時間くらい掛かってしまう。焦燥に駆られながら前に進める足を速めた。


 ▲

「…あり得ない。まるであの時の事件のようじゃないか」


 着いた頃には、数時間前まであった光景は霧散していた。何かしらの魔法によって破壊されてしまい廃墟と化していた。


 呆然と立ち尽くしていると向こうからジャリっといった石を踏む音が聞こえる。誰か生存者が向かってきていると思い声を掛けようとした瞬間、急激に体を引き寄せられた。


 訳も分からず抵抗出来ないまま何者かに顔から抱きしめられる。


「!?な、なん…!」


「黙って!」


 声を荒らげようとすると、そいつの手が俺の口を塞ぎ静かに諌められる。


「こっちから物音したんだがな、気のせいか」


 俺が元々いた場所に武装姿の男が近寄り、辺りを確認してからまた去ってしまう。


 その姿を確認して青ざめる。胸元に魔法機関を象徴する刻印が刻まれている。


 その男は、機関の武装部隊の一人であった。もしも安易に声を掛けていれば応援を呼ばれ袋小路になってしまっていただろう。


「もう大丈夫そうだね。」


「あ、ああ。ありがとう」


 周りにまだ魔法使いが居ないことかを確認してから口を塞ぐのと抱きしめられている状態を開放された。


 改めて目を合わせると二人して硬直してしまう。


 少しの時間が流れてからまた強く抱きしめられる。


「クー!生きてたんだね!」


 そう。魔法使いから助けてくれた恩人は、俺の幼馴染であるカーマだった。 

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