第12話 手を出さなきゃ有り?

 告白って、こんなにもアッケラカンとしたものだったっけ。

「あの」

 何か言葉を返そうと思っても、何も思い浮かばなかった。

「久我さん可愛いなってずっと思ってたんです。でも、人妻だって聞いたから、じゃあ諦めくちゃって思った。でも、会うと嬉しくって。お子さんにも会ったけど、めっちゃくちゃ可愛いし。見たこともない旦那さんに嫉妬しまくりですよ。」

「ごめん・・・。」

「あはは、そこ、謝るとこ!?ほんと、面白いですよね、久我さん。」

 だってどう反応していいのかわからない。

「でね、諦められないなって思って。でも、人妻じゃないですか。だからね、好きなだけならいいでしょ!?思うだけなら個人の自由って奴じゃないですか。ホラ、芸能人とか好きなのって、一方通行の恋じゃないですか!!会っても、手出ししなきゃいい。それなら、罪にならない。触ってもいいいんですよ、美容師としてなら。話してもいいんですよ、同僚としてなら。これって、芸能人よか、ずっと高待遇じゃないですか。好きっていってもいいわけです。肉体関係を持たなければ。一緒にいても」

「ちょっとストップ!!それ以上はストップ!!待って待って!!」

「はい。」

 美優が止めると、素直に慧也は黙った。

 彼の言ったことは美優がずっと思ってたことだ。

 心の中で思うだけなら別にかまわないだろう、芸能人を好きなのと同じだろう。その理屈は、まるで美優自身の考えと同じだった。

「それずっとわたしも思ってた。好きなだけなら、いいんじゃないかって。」

 照れながらもぼそりと美優が思いを口にする。

「でっしょー!!」

 嬉しそうにくしゃっと笑う慧也は、眩しい。鏡越しの笑顔が、余りにも素敵だ。

「絶対久我さんもそうだろうって、俺確信してましたっ!!」

「・・・はい・・・。」

 素直にそう言っていいのだろうか、と迷いながらも。

 慧也の率直な反応を見ると、その屈託ない笑顔を見ると、正直にそう言わずにいられなくて。

「ね?だから、髪をショートにしてくれれば、かならず月イチでは二人きりで会えます!!寝なくてもチューとか出来なくてもいいんです!会えるだけで、俺、嬉しいんです。」

 美優はただ、慧也の言葉が嬉しかった。

 今の関係を壊さなくてもいいから、好きなのだと言ってくれた。それがとても嬉しくて、美優もまた、慧也に惹かれていると告げてもいいのだと思った。

 思うだけなら自由。

 つまりは、思い合うだけならば罪ではないのだ。

 鏡の中で合った視線が、なんだかとても熱くて、照れくさかった。

 七年前の彼氏との恋を思い出す。大好きで大好きだった、あの頃の思いを。こんなにも恥ずかしくて照れくさくて、でも、たまらなく幸せな気持ちになれることを。

 美優は、数年ぶりにそれを思い出した。



 心の中でだけの恋だから、他人には言えるものではない。

 それでもいい。

「ママ、今日はご機嫌だね。」

 航平が美優の顔を見て嬉しそうにそういう。

「航平がいい子でいてくれるから、かな。そうそう、今日は亮太くんのママと会ったんだよ。」

 保育園からの帰り道、息子ににやけた顔を指摘されて恥ずかしいので話を逸らす。

 五歳の息子でさえ、美優の変化にこんなに敏感だ。

 遠く離れているとは言え、夫も少しは妻のことを気にかけてくれるだろうか。

 いや、それもどうでもいい。

 夫は夫で、好きにやっているのだ。

 美優も、航平もいない場所で、彼だけの世界が有る。


  

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