第11話 告白
「わあ〜、すっごい印象変わる!!可愛いね、美優!」
再会していきなり大声でそう言われ、ちょっと恥ずかしい。
美波は大袈裟だ。
職場の人もママ友も、皆これだけ髪型が変わったことを指摘して褒めてくれるのに、美優の夫は全く何も言わなかった。
まるで、髪を切ったことを知っていたかのように、無反応だったことを思い出す。
美優自身、夫が妻に無関心だったことを今更だと思っている。そういう夫なのだ、秀紀は。
「ありがと。何食べようか。」
昼間は、ここが居酒屋とはとても思えないほど明るくなっている店内で、テーブルへ案内された。
「どうしていきなり髪型変えたの?心境の変化とか?」
季節の定食ランチ飲み物デザート付きを注文し、美波はすぐにメニューを閉じた。
子持ちのママとは言え、美意識が高くきちんと化粧して着飾ることを忘れない。職業柄もあるだろう、彼女は美容部員なのだ。美人というわけではないが、綺麗に見せるのがうまい。彼女に会うと誰もが美人だと褒める。知り合ったばかりの頃は、美優もそう思って美人だね、と言ったが、
『なんちゃって美人だよ。これはね、
などと言って笑い飛ばした。正直な人だなぁ、などと思った記憶が有る。
「やっぱり育児と家事と仕事しながら、手入れ大変だからね。これから暑くなるし、邪魔だから切った。ほら、前に美波も言ってたじゃない、美容院は癒やしだよって。切ったら、凄く楽になったよ〜。」
「ご主人もきっと褒めてくれたんじゃない?」
「あはは、ナイナイ。そういうの気付かない人だもん。」
「そっかぁ。仕事忙しいの?カッコイイ人とか入ってきたりしない??うちは女性ばっかの職場だからさー、美優の職場男の人多くていいよねぇ。」
「確かに男性は多いけど、接点は少ないかな。挨拶するくらいだから、どんな人なのかほとんどわかんない。接客してる時間のほうがはるかに長いからね。キツイ仕事だけどさ、色んな客いるし。」
「お互い接客業は辛いよねー。」
美波は美優の方をのんびりと見つめながら、テーブルの上のお冷を飲む。
美優もまた、ぼんやりと向かいに座るママ友を見つめてから、もう一度メニューを眺めはじめた。
カット用の椅子に腰を下ろしてから、美優は言い難そうに目線を鏡の中の美容師へ向けた。
「なんすか?ご要望があればお聞きしますよ?他ならぬ久我さんですからね。」
「いや、あのね、こんな事聞いて気を悪くしないでね。もしかして、美容院はまだ余りお客さんきてないのかな?こないだも、わたし一人だったから・・・。」
丁寧に美優の髪をブラッシングしながら、慧也が笑う。
「ああ〜、ウチの店の経営状況心配してくれてるんですか。でも、それは誤解です。俺が、久我さんと二人きりになりたいから他の客がいないときに久我さんをお招きしてるんです。」
「えっ」
「もひとつ誤解しないでくださいね。二人きりになって何かしでかそうってんじゃない。お察しの通り、俺は、久我さんが大好きなんです。だから、来てくれて嬉しいじゃないですか。どうせ会えるなら二人きりがいいじゃないですか。」
「いや、あの、わたし既婚者ですし・・・あ、そういう意味の好きじゃないのかな?友情的な??」
「ガッツリそういう意味でっす!!」
なんでこの人は、そんなに明るくはっきりきっぱり大きな声で言うのか。
そんなにハキハキされると、恥ずかしいとか照れるのとか、バカバカしくなってしまう。
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