4-12

「興味ないと言っていたのに、どうして」

 通路を迷いなく進みながら千歳姫がぽつりとこぼした。

「あの方が知りたいとおっしゃる記憶には一切興味はないのですが、千歳の仕事ぶりが気になったもので」

「仕事と言えるほどのものではないし、面白いものでもないよ。誰かの記憶の本を探してその中身を観て読み聞かせる、それだけだ」

 淡々とした口調。図書館のこういった依頼を幾度もこなしてきたのだろう。本当に面白くないのになぜ興味があるのかと言いたげだ。何だか急に突き放された気がする。それならこちらから歩み寄らねば。

「白状すると、仕事がというよりも千歳、あなたに興味があるのです。あなたのことをもっと知りたい」

 姫の足が止まる。振り返るのに一拍遅れて白銀の髪が揺れ、姫の上気したかんばせが手燭の灯りでぼうっと浮かび上がった。

「お、お前……そんなことほいほいと女の前で言うんじゃない」

「どうしてです」

 姫が思った以上に動揺しているのでつい楽しくなって、わからないふりをしてしまう。

「ああもう。じゃあ質問を変えよう。こういったことをいつも女の前で言っているのか」

「言うわけがないでしょう。女人と話す機会だって、滅多にないのですから」

 姫は盛大な溜め息をつくと、独り言らしきものをつぶやいた。

「この朴念仁め……こんなの反則だ」

「朴念仁?反則?」

 聞き返すと「あ、いや、その」としどろもどろになる。手燭の炎がゆらめいて、本棚に伸びるふたりの影も大きく揺れた。結局姫は言葉が形にならないまま、最後にはがっくりと肩を落としてしまった。

 動揺させてしまっただろうか。

「煩わせてしまったのならすみません。素直に伝えようと思っただけで」

「いや、その、なんだ……みんな記憶の本に興味がいくものだから、ワタシに興味があるのなんのと言った奴は、お前がはじめてで……」

 言いながら、どんどん姫の頬の紅潮が増していっているように見える。頭から湯気でものぼってきそうだ。

「あなたのはじめてになれたのなら、これほど嬉しいことはありません」

 嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。千歳姫は口を引き結んで、進んでいた方向に身体を戻す。

「さ、さっさと記憶の本を探さないとだな!待たせるのも悪いし」

 ずんずんと早足で突き進む千歳姫を追いながら、維央は笑みで口許がゆるむのを抑えられないでいた。

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