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○
「ねえ。千歳姫さんは想い出図書館のことを良く思ってなかったみたいだけど」
「確かに……千歳姫さんは想い出図書館が存在することに懐疑的だったようです。一番長くここに携わっていたせいもあるのでしょう。かと言って人々の記憶を司る存在ですからなくすわけにもいかず、ずいぶんと悩まれていたようにお見受けします」
「維央さんは?図書館のことをどう思っていたの」
「良いも悪いも……そうですね、そういえば聞いたことがなかったように思います」
「ふうん」
◇
後日道長から了承を受け、姫や想い出図書館の一切を公言しないことを条件に、維央は仕事が休みの日は千歳姫を訪ねることが日課となった。元より真面目一辺倒で宮中と屋敷を往復するのみの単調な生活だったから、誰に文句を言われることもない。文句は言われないのだが。
「お前、噂になっているぞ」
仕事中に同僚に耳打ちされ、寝耳に水だった維央は眉をひそめた。
「噂?どんな?」
「近頃、休みのたんびに出かけているだろう?だからついに通うような仲の女ができたのかって。今まで維央のまわりでそんな噂ひとっつもなかったから、少し噂になってる。本当のところどうなんだ」
貴族に限らず、人というのは噂好きだ。
今まで噂の当事者になったことが一切なかった維央は、そんなに目立っていたかと内心頭を抱えた。
「そんな噂になるような仲の人、いるわけないだろう。この私だぞ?」
あっけらかんと笑ってみせると同僚はまじまじと見つめたあと、ぷっと吹き出して同じく笑った。
「違いない。仕事一筋で特段趣味もないと言っていたもんな。悪い。俺の勘違いだったみたいだ。けど噂が立つってことは、期待の裏返しだかんな」
ぽんと肩を叩いて同僚は仕事に戻った。姿が見えなくなってから盛大に溜め息をつく。肝を冷やしたが逆に教えてくれてありがたい。同僚に感謝しなければ。こんな些細なことで噂になるならばもう少し外に興味を持っていれば良かったと後悔した。
維央が悶々としているうちに、中務省の居室に
「献上された
籠の中に山と盛られた柑子は、なるほど見事な代物だった。黄色く熟れて、小ぶりだがひとつひとつがしっかりと詰まっていると持った重さでわかる。
明日は姫にこれを持って参ろう。
その思いつきが浮かぶと、悩みは一気に吹き飛んでしまった。
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