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「前の館長さんって、女の人だったんだ……。てかさ、他人の記憶を観ても大丈夫なの?」

「前館長に限らず、館長の権限を持った方は皆、可能なようでした。維央さんは心の負担が大きいことと、そもそも他人の記憶を本人の許可なく観る行為は褒められたものではないという理由で、滅多なことでは観ませんでしたが」

「そうなんだ。あと……頼鷹さんがこの話、書き起こしたんだよね?これって、維央さんに聞いたそのままなの」

「ええ。脚色は加えないように努めております。ですが、読みやすいように文章は整えていますね。どこか、おかしなところでもございましたか?」

「ううん。メモ程度の素っ気ない感じだと思ったらちゃんと読み物になってたから。あと藤原道長なんて誰もが耳にしたことがある歴史上の人物に実際に会ってたっていうの、ちょっと実話だって信じられなくて。大河小説でも読んでるみたい」

「お褒めに与り大変光栄ですが……少々、気恥ずかしいですね。私も初めは、創作でも聞かされているのだろうかと疑いました。けれど維央さんと過ごすうちに、やはり語ったことは嘘偽りない事実なのだと、考えを改めました」

「それを確信したのって、何かきっかけがあった?」

「ええ。香をきしめたようによい香りがふわりと、維央さんから匂うことがときどきあったのです。ほんの一瞬のことですぐ消えてしまいますし、維央さんも想い出図書館に従事してからは香を薫く習慣はなくなったとおっしゃっていたので、本当に薫ったわけではないのでしょうが……きっと、あの人の過ごした長い長い年月の薫りなのだと、私は思うようなりました。それと」

「それと?」

「牛車に乗って前館長……千歳姫さんにお会いしに行った際の語り口が、あまりにも真に迫っていましたから。ほら話だとしたら、車酔いした挙句、吐いてしまったことまでわざわざ語るでしょうか」

「うーん……てか牛車って、やっぱ酔うの?」

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