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頼鷹の寝起きしている洋室は六畳一間で、ひとりで寝起きするだけならば十分な広さだった。
枕元に棚を取り付けたシングルベッドと、グリーンのカーテンがかかる窓辺には書き物机、チェスト、小さなソファとローテーブルといったシンプルな調度類。それだけならばミニマリストともいえるすっきりとした印象だが、それを打ち消すには十分な量の本が辺りを占めていた。壁の一面に本棚が備え付けられているがそれだけでは到底足らず、床には本棚に収まりきらなかった本の塔が無数に積み上がっている。
「ほとんどここへ人を招いたことがないもので……こんな有様で申し訳ございません。どうしても、その……本が収まらなくて」
頼鷹が困ったようにはにかむ。
今見せた表情もこの部屋に招かれたこともレアだからむしろご馳走様です、と汐世は心中で拝むと同時に、彼のイメージがさほど変わらなかったことに少し安堵した。
なんとなく予想はついてたけど、まだ床が見えるだけ全然ましじゃん。
「ああ、ありました」
袖机の引き出しからすぐに目的のノートを取り出せたことからも、本以外はきちんと整理整頓をしていることが伺えた。
「この帳面はしばらく汐世さんが預かっていて構いませんから、読み終えましたらお返しください」
頼鷹は汐世へ一冊のノートを手渡した。帳面、と呼んでいたので和綴じの古めかしいものかと思っていたが、汐世が普段使っているキャンパスノートとさして変わらない、淡いクリームの地に黒の製本テープが巻かれたありふれた糸綴じのノートだった。ただ古いものなのか、だいぶ表紙と中身に年季がはいっている。
渡されはしたけど、と汐世は一瞬考える。そして答えを決めて顔を上げた。
「頼鷹さんに質問するかもしれないから、忙しくなかったら隣にいてくれるとありがたいんだけど」
汐世のささやかなわがままだった。
どうせ思いを伝えることは叶わないんだ。少しでも長く、想い人のそばにいたいと思うのはそんなに悪いこと?
「確かに。読んだだけではわからないことも出てきますね。名案です」
頼鷹は汐世の心中など露知らず、彼女の提案に素直に納得している。
「そういうことでしたらお茶のご用意もいたしましょう。折角ですから、キッチンもご案内いたします」
頼鷹の提案に汐世はつい、本日のお茶菓子はなんだろうと気持ちが移ろってしまった。色々と思いめぐらせてはいてもそんなことを脇にやってしまいたくなるほどに、頼鷹の用意してくれる甘いものの誘惑にはどうしたって勝てないのだ。
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