3-10
本を元の場所へ戻し、すぐに揃って図書館を出た。
現在午前七時過ぎ。
図書館を出てネットがつながるようになったので、真っ先にシュクレ・ペタルや事務所の公式ホームページをスマホで確認してみたが、昨日の深夜連れ去られてまだ早朝の段階だからか、箕輪かおるについて騒いでいる様子はなかった。
今のところ部屋を出られない以外不自由はなさそうだし、俺の見解では今以上に状況が急激に悪化することは無いように思えたが、やっぱり急ぐに越したことはない。土地勘は彼女にあるので先導してもらった。
「警察だー!って乗り込むんですか」
「それなら警察手帳は返してほしいかな」
先を急ぐ道中で俺が答えると、須璃ちゃんは歩きながらも器用にバッグを探る。すぐに見つけてぽいっと俺のほうにそれを放った。
軽口程度に思っていたんだが、思っていたよりあっさりと手帳が戻ってきた。いや、今朝紛失に気づいてからやきもきしてたので、ようやくではあるけど。
「返しましたけど、もうちょっとだけ手伝ってください」
「わかってるよ。乗り掛かった舟だ」
「てーばくんみたいな人、お人好しって言うんですよ。駅でも助けてくれましたし」
「それは……いつも運が悪いから、善行を積むというのを自身に課してて」
「何ですかそれっ」
ぷはっと須璃ちゃんが吹き出した。お姉さんの居場所が知っている人の家だとわかったせいか、だいぶ緊張感もなりをひそめたらしい。
「まあ、警察だと名乗りを入れて突入するのは、その……ツタダ先輩を刺激する可能性があるからやめよう。まずは穏便に」
俺はざっくりと計画を説明する。
「そうですかぁ。これってもしかして刑事ドラマみたい?って思ったんですけど」
俺だって、現場に突入するようなそこまで緊迫した状況をまだ経験したことはない。正直言ってしまうと、したくもない。仕事に情熱を燃やすのは悪いことじゃないが、命は何よりも大事だ。
「ドラマじゃなくて、今現実に起こってるんだよ」
口にしてから、これこそドラマにありがちな台詞じゃね?と思って少し後悔する。
それを気取られた様子もなく神妙に頷かれた。深く心に留めてもらえたのなら良かった。さらに少し歩き、こっちです、と須璃ちゃんに言われ角を曲がると、朝の白い光に照らされ、整然と区分けされたマンションが現れた。
歩いている途中、そう遠くない距離に晩稲田大学のキャンパスがちらっと見えたから、駅も割と近いしずいぶん良い立地に住んでるなと思った。
「ここの三階、三〇三号室が先輩のお家です」
須璃ちゃんが少し険しい顔でマンションを見上げた。
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