3-11

 エレベーターを上がって、出てすぐ正面が目的の部屋だった。

 オートロックではなかったので、まだ俺たちの訪問に気づいてはいないだろう。

「じゃあ、押しますよ」

 須璃ちゃんが小声で言って俺のほうをちらりと見る。俺は無言で頷いた。

 ぴんぽーん。

 俺たちの緊張とは裏腹に、気の抜けた音でインターホンが鳴る。程なくして「はい」とインターホンのスピーカーから女性の声がした。

「おはようございますぅ。朝早くに突然すみませぇん、箕輪ですぅ」

「どうしたの」

 須璃ちゃんのきゃぴきゃぴした声にいら立ちを覚えたのか、つっけんどんな声音でツタダが要件を聞いてきた。

「こないだ、先輩のお家行った時に忘れ物しちゃったみたいでぇ、ちょっと上がらせてもらえませんかぁ?」

 しばし無言。

「……忘れ物って、何?」

「スケジュール帳ですぅ」

 もちろん須璃ちゃんはそんなものを忘れてなどないのだが、ツタダ先輩の家に上がるための口実だ。

「えっ?そんなの忘れてあったかなあ……今ちょっと手が離せなくって。あたしが探しとくからさ、午後学校来たときにでも渡すでも良い?」

「今すぐ必要なんですよぅ」

「……ちょっとごめん。今立てこんでるの」

「立てこんでる?ええ、何にですか?」

「ええ~と……その……そうっ!レポート。レポート課題の期限が迫ってるの」

 明らかに焦った声が返ってくる。

 彼女は、何か隠している。記憶の本で確認したから、その隠しごとがなんなのか、そんんなことはもうわかりきっている。

「今って、試験前じゃないですよねぇ?レポートなんて嘘、つかないでくださいよぉ。何で嘘つくんですかぁ?上がっちゃ駄目な理由でもあるんですかぁ?ねぇねぇ先輩、つっこんだこと聞いていいですかぁ?薫瑠ちゃん、そこにいるんでしょうっ!上がらせてください」

 須璃ちゃんが思いっきりガチャガチャとドアノブを鳴らす。家主は溜まったものではないだろう。案の定、ひっ、と小さな悲鳴がドアの内側で聞こえた。

「開けるっ、今開けるからっ!」

 どたどたと足音がして、鍵を回す音に続きドアが開け放され、青ざめたツタダの顔が現れた。

「おじゃましま~す」

「ちょっとお尋ねしたいのですが、箕輪薫瑠さん……シュクレ・ペタルの箕輪かおるさんがこちらにいらっしゃいますね?」

 須璃ちゃんがさっさと家に上がり込むのを無気力に見届けていたツタダに、俺は警察手帳を見せ質問する。彼女は俺の存在に一瞬驚いたあとがっくりとうなだれて、はい、とだけ答えた。

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