3-8

 一度目に見つけたのは須璃ちゃん本人の記憶の本だった。確かに広間まで戻ってきやすい位置の本棚に収まっていた。気を取り直し、さらに奥にありそうだと言うのでそのまま進むと、あっけないほど早く彼女のお姉さんの本は見つかった。

「これですよこれぇ!薫瑠ちゃんの本!こんなに早く見つかるなんて、きっと図書館の神様が手を貸して……」

「見つかったんなら、そろそろ手帳を」

 須璃ちゃんの感動にふるえる声を遮って、俺の人質(物質ものじち?)を解放するように頼む。こっちだって死活問題なんだ。

「だめですぅ。無事に記憶の本を観て、戻ってくるまでがてーばくんのお手伝い内容ですよぉ」

 さいですか。記憶の本を大事に抱え、ぷうとむくれる須璃ちゃんに反発する気が秒で失せる。

 俺がお手上げのポーズを取り、手帳を取り戻すのを一旦諦めたと表明すると、須璃ちゃんはやる気持ちを抑えきれないようにその場で本を開いた。

 目ぼしいページをぱらぱらとめくってゆく。自身の記憶の本と同様、斜め読みにざっと内容を確認するぶんには記憶に呑まれないようだ。

「あ」

 須璃ちゃんがぴたりと動きを止めた。

「うそ」

 感情が抜け落ちた声がぽつりとこぼれると、彼女の顔色が明らかに青くなる。

「どうした?」

 俺の声にびくりと肩を震わせ、そこでようやく俺が付き添っていたことを思い出したようにこちらに顔を向ける。

「てーばくん、どうしよう。薫瑠ちゃん、監禁されてるかも」

「監禁されてる?」

 穏やかじゃない答えが返ってきた。わたしのせいだ、とつぶやいた須璃ちゃんの顔がくしゃりと歪む。

「文章だけじゃ詳細がわかんない。ちゃんと観なきゃ」

「観て、本当に大丈夫なのか」

 やっぱり俺には頼鷹さんの忠告が引っかかっていた。

「わかんない。でも観なきゃ」

 彼女は自身を落ち着かせるように、ひとつ大きく深呼吸した。

「観てる途中にもし、わたしに何か異常があったら本を閉じてください。脱しかたは、自分の記憶の本と変わらないんだと思います」

 お願いします、と決意のこもった顔で頭を下げられる。俺はそんな顔で頼まれて断るような非人道的な人間ではない。わかった、とただ一言頷いた。

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