2-6
「こちらが十一の……と言いますか、四十九院来未さんの記憶の本です」
「へえ、これが。おれのにしちゃあ、立派なもんだな」
十一は渡された記憶の本をしげしげと観察している。頼鷹が席に着きつつ律儀に「記憶の本の体裁はすべて統一されています」と説明を加えた。十一はふんふんと頷きながら、まず目次を開いた。
「零より前は……無えな」
「そのようですね」
目次には零から四の漢数字と該当のページ番号が振られているが、確かに零の前に章は何も立てられていない。
十一はそのまま、ぺらりぺらりと小さな手でページをめくる。
「あ」
十一が驚きの声をあげてページを指し示した。零章が表れる前に、別のページが挟まっていたのだ。
「もしかして、これなんじゃないのか。ほら、田中十一の記憶ってある!」
「そのようですね。幼い方の記憶の本はみな、このようになっているのでしょうか……存じ上げませんでした」
「やっぱりあったろ?頼坊、一緒に読もう」
十一がぷっくりとした頬を紅潮させながら、開いた本を頼鷹のほうへ掲げる。頼鷹は諫めるように微笑んだ。
「記憶の本は、その本の持ち主のみに読むことを許可しております。他の方の本を読んでしまった場合、記憶が上書きされてしまう危険がございますから。ただし、持ち主が自身の記憶の本を他の方に読み聞かせるのであれば問題はありません。この場で読み聞かせるとなりますと、私だけでなくこの場にいる汐世さんも記憶を観る対象になりますが」
その説明を聞いて、十一の表情に少し翳りが差した。
「あたし、別の部屋にでも行って、待ってようか」
汐世が腰を浮かした途端、「違うんだ」と十一が首を振った。
「汐世ちゃんがここにいるのが駄目なわけじゃねえんだ。おれの技能の問題だ。本を読むのも不得手なのに、おれが誰かに読み聞かせるなんて……」
「試しにやってみてはどうでしょう。貴方はまだお若いのですから、何事も経験ですよ」
「頼坊のくせに、言うじゃねえか」
十一はにやりと笑い、「じゃあ、どっこにしようかねえ」と呟きつつページをめくっていたが、程なくして「おっ」と声をあげた。
「折角だし、これがいいだろう。頼坊はおれが田舎へ帰った時、言伝を丁稚の
十一の問いに頼鷹は「いいえ……」と怪訝そうに首を横に振った。
「そんなこったろうと思った。ああ、進を責めてやるなよ。あいつだって立場があったろうし。それに、できたら直接伝えたかったことだしな。じゃあ、はじめようか」
その声を合図に二人は十一のほうへ身体を向き直し、聞く姿勢に入る。
十一は居住まいを正し、咳払いをしてから本に目を落とすと、ひとつ深く息を吸って声を発した。
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