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 広間の椅子に座ってお待ちくださいと言われたが、そこは丁重に断り、おれの本を探す狩野さんについていくことにした。広間の先には人がなんとかすれ違えるほどの幅の廊下が長く続いている。その壁一面が本で埋め尽くされていて、これを撮らないでどうすると思ったのだ。

「すごい数の本ですね。何冊あるんですか」

「残念ながら把握しておりません。記憶の本はその人そのもの。一人につき一冊ですから産まれる方の本や亡くなられる方の本はそれこそ日々変動いたします。ひとつひとつ管理するのは難しいのです」

「……途方もないですね」

 おれが圧倒されて見上げているのをにこにこと眺めている。廊下は一本道ではなくところどころ分岐しているようで、さらに言うと本はみんな同じ厚さの深緑の装丁で、道順を覚える目印にできるとも思えない。まさしく書架迷宮と言えるのではと、ひとり取り残された時のことを考えて肝を冷やすなどした。

 彼にくっついて度々質問を交えつつ五分もすると、ずっとよどみなく歩を進めていた狩野さんがぴたりと一つの書架の前で立ち止まり、その棚から一冊の本をすっと抜き取った。それを丁寧な扱いでおれのほうへ渡す。

「ありました。影近博大さん。こちらが貴方の記憶の本です」

「本当だ……どうしてここにあるってわかって、おれのだってすぐわかるんですか。同姓同名だっているでしょうに」

「そこは、勘です」

「勘」

 何か秘策があるのかと思ったのに拍子抜けだ。相変わらず微笑みを貼り付けているので、本気か冗談かもわからない。

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