1-3

「ようこそ、チャンネル視聴されている受講生の皆さま、本日も楽しいオカルトライフを送っているでしょうか?そろそろおなじみですかね?ゆめおか教授です」

 翌日の午後十一時。

 ロケ地に選んだ十一月の木枯らし吹きすさぶ寂れた公園は、街灯も少なくほとんど真っ暗だった。寒いはずなのに唯史は嫌な顔ひとつせず、お決まりの挨拶の口上を述べた。

「さあ、今回は告知のとおり、実地調査をやっていきますよ。昨今じわじわと知名度が上がってきている都市伝説『想い出図書館』は本当に存在するのか?という、ね。実は想い出図書館の手伝いをしているという方のサイトがありましてね、そうそうこちらです。その管理人さんが想い出図書館への行きかたを教えてくれているので、その真偽も確かめてまいりましょう、という調査です。

 面白い調査になるかどうか……。けどせっかく助手君が企画してくれたので、ぜひとも良い調査報告ができたらなあと思います」

 おれがGO Proの画面を見つめたまま「カット」と声を掛ける。唯史はそのひと声を聞くとすぐに、顔半分を覆うマスクをずらし生真面目な表情を緩めた。

 ユーチューバーであるゆめおか教授は、名前のとおり教授らしいかっちりした格好に身を包んだ、折り目正しげな雰囲気を持ったユーチューバーだ。

 アカデミックな見た目かつ、顔半分は隠れているがそれでも隠し切れない甘いマスクでいかにも女子受けしそうな風体な反面、配信で扱う内容は都市伝説などのオカルトに特化しているという、そのギャップが割とウケているようだ。けど、これは人気稼ぎではなくあくまでも身バレしないためのキャラ付けで、おれが提案した。多少の自衛は必要だろう。ロケする場所もみんなおれたちが住んでいるところからは離れた場所に移動して撮影している。それらが功を奏しているのか、半年ほど動画をアップしているがまだ唯史がゆめおか教授だと学内でもバレている雰囲気はない。

 おれと唯史は顔をつき合わせて、ごくごく小さな画面で撮影した動画をチェックする。

「良いんじゃないか。あとで編集でサイトのリンクを貼ろう」

「おっけー。じゃあ続きね」

「頼んだ」

 先ほど立っていた位置に唯史がいそいそと戻ると、程なく準備ができたようなのでおれは合図キューを出した。

「さあ、立ち止まったままだと凍えてしまいそうなので、さっそく想い出図書館へ行ってみましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る