1-2
「ひろおー」
待ち合わせにした学食に足を踏み入れ唯史を探していると、あいつのほうが先に気付いておれに大きく手を振った。唯史のまわりには、テーブルを囲んで何度か見たことのあるような男女があわせて五人。たった今まで話に花を咲かせていたようだ。
「じゃ、またあとでね」
唯史が荷物を手に取って席を立つと、連中も笑顔で手を振った。そして軽やかに輪から離れ、おれのほうへ駆け寄ってくる。
みんな表面上はにこやかだけど、もしかしたらおれに良くない感情を持ってるやつもいるんじゃないかと、もやもやとした気持ちがせり上がった。
だって、そういった経験があったから。唯史とつるむのは嫌いじゃないけど、ファンクラブが結成されるくらいの人気があるのだけは厄介だ。
「ごめんごめん。お昼、これからだよね?」
「ああ。てか、話途中っぽかったけど大丈夫なのか?」
「大丈夫。それに博大のほうが大事」
「そりゃ嬉しいこって。そんなこと言われちゃ、おれじゃなかったら惚れてるとこだ。お前の天然タラシ、面倒ごとに巻きこまれそうだし気をつけたほうがいいぞ」
「……そっ、か。うん、ありがと」
「どうした?飯食いながら打ち合わせよう」
そう軽口を言いつつ、普段から「打ち合わせ」で利用している席へ向かう。
混雑時でも基本空いていて、かつ人通りも少なくて話を聞かれる心配のない穴場があるのだ。「打ち合わせ」の内容を聞かれると色々とまずいので重宝している。
席の場所取りをして、各々食べたいものを食券で頼みトレイに載せ戻ってきた。
おれはかけそば。唯史はデミグラスハンバーグにミックスフライが付いた定食。悲しいかな、おれは唯史みたいにブルジョワではないので、学食内でも高値にあたるメニューをそんなほいほいと頼むわけにはいかないのだ。機材代のために節約しているという理由もある。
「じゃあ『ゆめおか教授』の次回企画の打ち合わせ、はじめるか」
いただきますを言った直後、おれは切り出した。唯史は箸で切り分けたハンバーグを頬張りながらうなずく。切ったそばから肉汁がぶわっと溢れてた。くそ、美味しそうだな。
「……俺のおかず、分けようか?」
唯史が気遣っておれに問いかける。そんなに物欲しそうにしていたか。不覚だ。
「……施しは受けない」
「良いの?ストイックだね」
そして何事もなく食事に戻る。
こういった場面で気まずい雰囲気にならないようさらりと話題を終えてくれるのが、唯史の友だちが多い所以なのだろう。口にしては言わないけど、いつも感謝している。
そうだ。打ち合わせを進めないと。
おれが口にした「ゆめおか教授」とは唯史のユーチューバーネームだ。
唯史が表に出て、おれは裏方。
ユーチューブで動画を作ろうと誘ってきたのは唯史だが、おれは一緒に出演することを断った。キラキラ男子な唯史のとなりで見るからに陰キャなおれが並ぶなんて、とんでもない。それなら企画や編集もろもろは全部おれが好きにやって良いと提案してきたのだ。元々動画作成には興味があったので願ったり叶ったりだった。
「行きかた、教えてもらえたから企画してたとおり想い出図書館の取材をしようと思う。進行はふわっと考えてるからいつでもできるが……決行はいつにするかな」
「善は急げだよ。明日!明日の夜にしない?」
「わかった。明日な」
鉄は熱いうちに打て。意見は合致していたようだ。おれがうなずくと唯史はふわりと笑った。
本当、楽しそうだ。おれには眩しすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます