想い出図書館 第三部
傘ユキ
第一話 都市伝説と記憶
1-1
週の真ん中、ど平日の午前中。
今日の講義は午後からだしバイトも夜からで特にやることもなく、せせこましいワンルームに敷きっぱなしの布団にくるまりながらなんとなくスマホを操作していたら、ぽこんと通知が画面の上部にあらわれた。
通知欄には知らないメールアドレスと、「はじめまして、こんにちは。想い出図書館非公式サイト管理人の
おれはがばりと起き上がって居住まいを正した。三日前からずっと、まだ返事はこないだろうかとやきもきしながら待ってたのだ。
スマホを操作しようとする指先が、ぴりりとこわばって急に冷えてきた。電気代をケチって暖房をつけるのを我慢してたけど、そんな些細な寒さはとうに吹っ飛んだ。震えはきっと武者震いだ。メールアプリを開き、新規メールをタップすると、文面の詳細が表示された。
『はじめまして、こんにちは。想い出図書館非公式サイト管理人の栞です。
メールありがとうございます。拝見いたしました。
早速ですが、想い出図書館への行きかたをお教えします。……』
早く、相方に知らせなくちゃ。
今度はメッセージアプリを開き、相方あてにすばやく要件を打ち込むと、通学に使っているリュックにスマホを放り込んで忙しなく家を出た。
大学二年のおれ、
いかにもオタクでコミュ症な、野暮ったい眼鏡をかけてるおれとは正反対だ。
そんな奴とどうして付き合いがあるかというと、そもそも唯史はどちらかというとおれ側の人間だったのだ。
教室の隅っこの席で黙々と読書をしているような。顔立ちはよく見れば整ってるとわかるけど、分厚い眼鏡で隠れてしまって全体的に地味な印象を持つ奴だった。
声をかけてきたのは唯史のほうからだった。
おれがちょうど席で読んでいたラノベのタイトルを目にして、自分も知ってるとキラキラした目で言われたのがきっかけだ。同志を見つけた喜びが抑えられなかったんだ、とあとで恥ずかしそうにこぼしていた。その時の唯史は、少なくとも今みたいなカーストの上位にいるような印象ではなかったのだ。
変わったのは高校入学のときからだ。いわゆる高校デビューというやつか。
素材が良いから、眼鏡からコンタクトにして、髪も整えたら劇的に女子にモテるようになった。見た目が変わっただけで、内面はもともとすこぶるいいやつだったから、目立つようになってからは男子にだって女子に劣らない人気を得た。
高校デビューの理由を聞いたら耳まで真っ赤にして「たいした理由じゃないよ」と結局教えてくれなかった。あいつは赤面症なのだ。今じゃ逆に「可愛い」などと女子にもてはやされている。顔が良いってほんとうに得だ。
そんな恵まれた人生を現在進行形で歩んでいる唯史だというのに、中学から全く変わらない態度でいまだにおれとつるんでることに関しては、やっぱり謎のままだ。
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