第3話『今後の方針』

 夕飯までしばらく自分の部屋でくつろいでいたら、突然天井から、ゴールドちゃんからの超大音量のアナウンスが、俺の鼓膜を突き破り、俺の脳ミソを震撼させた。


『キンコンカンコーン!!! みんな!!! 今日の夕食が出来たぜ!!! 食堂へ集まれええええええええ!!!!!』


『うるせえええええええええええええ!!!!!』


 もうマジで、建物が全壊するんじゃないかってくらいの超大音量だったので、俺の耳が耳鳴りという名の悲鳴を上げ始めた。


 これ音量調節できないの……。


 俺は涙が出るほど痛む耳を塞ぎながら、食堂へ向かった。


『お、ダストっち来たあああああ!!!』


 食堂の扉を開けると、相変わらず異常にテンションが高いゴールドちゃんとその妹2人とメイド服に着替えていた赤髪ちゃんとあおいちゃんと魔王が椅子に座っていて、どうやら俺以外は全員揃っていたようだ。


 その魔王は、なぜか下を向いてしゅんとしている。恐らく何かやらかして、赤髪ちゃんに怒られたんだろう。知らんけど。


『ダストっち! こっちに座って!』


 俺はゴールドちゃんに言われるがままに、指定された椅子に座った。硬い木の椅子なので、少し尻が痛いが、座っていられないほどではない。


『ん? これは……』


 テーブルの上には、俺の故郷の日本でもよく食べた、カレーが置いてあった。


『ダストっち、これはな、カレエエって名前の料理だ』


『カレー?』


『いや発音がちょっと違う、カレエエだ。カレエエラァイスとも言うぞ』


 へぇ、こっちの世界とは、微妙に名前が違うんだな。地味に言いづらい……。


『あ、場所によっては、カレシダイスキとも言うところもあるぞ』

 

 彼氏大好き? なんだそのふざけた名称は……食べ物ですらないぞ……バカップルが名前をつけたんだろうか?


『あとは……ダークネスとも呼ばれてるらしいぞ』


 突然の厨二ネーミング。もはや原型を留めてない……。


『よし、みんな座ったな! それじゃ……いただきます!』


 ゴールドちゃんがそう言うと、他の皆も『いただきます!』と言って、手を合わせた。そういうところも日本と同じなんだな。



 俺はスプーン一杯にカレエエのルーを掬い、口に運んだ。


『!!』


 こ、これは……!


『どうだ? ダストっち、うまいか?』


『ああ! めちゃくちゃ旨い!』


 お世辞抜きに、ホントに旨い。毎日食べたいくらいだ。


『そうかそうか! 良かった良かった!』


ゴールドちゃんは、うんうんと頷き、満足そうな顔をしている。


 俺はあまりの旨さに、あっという間に全て平らげた。


『ごちそうさま! いや~ホント旨かったよ!』


『へへっ、アタシ達の愛情たっぷり込めたからな!』


 ゴールドちゃんもそう言うと、シルバーちゃんは照れ顔で下を向き、ブロンズちゃんは、なぜかにこやかに頬に手を添えていた。


『?』

 

『ダスト様、食べ終えたばかりで申し訳ありませんが、今後の方針について、魔王様からお話がございます』


『話?』


 さっきまで騒がしかった空気が静寂に支配されると、魔王は咳払いをし、口を開いた。


『うん、ダッ君の今後の話なんだけどねー、まず、ダッ君の封印された能力を少しずつ解放しようと思ってるんだー』


 おい、ダッ君ってなんだよ。いつの間にそんなあだ名になったんだ……美少女ならともかくこんな悪人面のおっさんに言われるのは、めっちゃキツいぞ……ってそうじゃなくて、封印された能力だと? 俺にそんな力があるのか? 厨二心が目覚めちゃうじゃないか……。 


『それで、その封印された能力ってのは何だ?』


『うん、その封印された能力っていうのはね、身体能力を上昇させる、とてもシンプルで珍しい魔法なんだよ』


 魔法だって? やっぱ異世界だな。魔法って概念が存在したのか……いや、それよりも気になることが……。


『なあ、なんでそもそも異世界から来た俺に、そんな能力が封印されてるんだ?』


『それは……儂にも分からぬ!』


 魔王は堂々と真顔で言いやがった。こういうのはちゃんと知っとくもんだろうが。


『はぁ……まあ、いいや、その封印された能力ってのはどうやって解くんだ?』


『簡単な話だよ、ダッ君が強くなればいいのだー』


『強く? トレーニングでもするのか?』


『うん、そうだよー』


 うわっ、めんどくさそう……。


『具体的にはどうトレーニングするんだ?』


 そこが1番重要だ。バトル漫画のようなトレーニング内容では、クソ雑魚な俺では死にかねない。


『それは明日説明するね』


 どうか俺でもちょっと頑張ればクリアできるものでありますように!


『分かった、それで俺がそのトレーニングで強くなったとして、そのあとどうするんだ?』


『いやいや単純に君には強くなってほしいだけだよ』


 魔王は突然、真面目で尚且つ優しい表情でそう言った。同時に他の皆も同じような表情になっている。


 おい何だこの急なシリアス雰囲気は? 俺に強くなってほしい? 封印された能力はどうした? それが目的じゃないのか?


『は? ホントにそれだけか?』


 俺に強くなってほしいだけで、わざわざ召喚なんてするわけがない。きっと何か裏があるに決まっている。


『ごめんね、まだ全部は話せないけど、儂は昔の君を知ってるから』


『昔の……俺……?』


 こいつは、いきなり何の話をしている? 何だか話が噛み合わないような……?


『うん、君は覚えてないだろうけどね』


 ああ全然記憶にない。俺はこの魔王とは初めて会ったはず……だけど、この魔王にはなぜか絶対的な信頼感があるような気がするし、どこかで会ったことがあるような気もする。なんでだろう?


『まあ、安心してよ、この世界は、さっきまで君がいた世界よりもはるかに危険だけど、君の事は絶対儂が守るからさ』


 こんな風に言われたのははじめてだな……。少なくとも俺がいた世界ではありえなかった。ずっといじめられ、見下され続けた俺にはな……。


『お、おうありがとな魔王』


『もう! そこはまーちゃんって呼んでよね!』


 せっかく良い雰囲気で終わりそうだったのに、そのテンションとノリのせいで台無しだ。


『まあ、その内呼んでやるよ』


『うん! 約束だよ!』


 悪人面の魔王には似合わない子供のような無邪気な笑顔でそう言った。いやホント似合ってねえな。


 その場にいた赤髪ちゃん達もにこやかな表情で、俺の心は暖かくなった。


『あ、あとまだまだこの世界について、聞きたいことがあるんだが……』


『うん、いいよー、いっぱい話してあげる……赤髪ちゃんが』


 もう説明するのダルいんだな。


『魔王様、人に仕事押し付けるのはやめて下さい』


 赤髪ちゃんは、はぁ……とため息をついて、呆れた表情でお手上げの仕草を見せた。赤髪ちゃんも大変だな……。


『でもまあ、いいでしょう、差し支えなければ、私が説明致しましょう。ダスト様、よろしいですか?』


『いいですよ、赤髪ちゃん、よろしくお願いします』


 まあ確かに、そこのふざけた爺さんよりも、美人である赤髪ちゃんから説明された方がいいな。それに赤髪ちゃんのメイド服姿をもっと見ていたいし、むしろ最高では?


 その後、赤髪ちゃんから、この世界の事や、ついでに魔王やゴールドちゃん達の事や、まだ謎の多い美少女あおいちゃんについても、教えられる範囲で教えてもらった。美少女組の紹介をする時の赤髪ちゃんは、少し頬が緩んでいた気がした。


 でも結局、教えてもらった情報は、せいぜい身長とか出身国等、今の俺には、あまり重要ではないものばかりで、少し残念だった。


 べ、別に、スリーサイズとか下着の色とかを知りたいとかじゃないんだからね!

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