第2話『食堂のアイドル』

『こちらがダスト様のお部屋となります』


 赤髪ちゃんに俺の寝床となる部屋へ案内された。魔王城だから、てっきり豪華な部屋をイメージしてたのだが、実際にはベッドと机とタンスとクローゼットがあるだけの、日本の家庭でもよくありそうな、ごくごく普通の部屋だった。


 まあだからといって特に不満はない。むしろこちらの方が落ち着く。


 この魔王城にはこの部屋と同じような部屋が50個程あり、その他には食堂、浴場、娯楽施設、修練場と、さすがに広い建物だけあって、色々とある。


 でも、やっぱり魔王城らしくないな。


 さっき魔王と話していた部屋の方がよほど魔王城っぽかった。


 炬火たいまつもあったし、金持ちの家にありそうなレッドカーペットも敷いてあったし、あのラスボスが座ってそうなかっこいい玉座もあった。


 でも他の部屋の明かりは炬火たいまつではなく、異世界に相応しくない、俺にとってはお馴染みの電気だし、敷いてあるカーペットもその辺のホームセンターとかで買えそうなものだし、まあ玉座は1つの城に通常1つか2つくらいしかないからしかたないけど、俺の部屋で座れるものは某青いロボットと一緒に住んでるメガネの小学生の男の子が座ってそうな緑のイスっぽい感じだし。


 ちなみに、俺にとっての魔王城のイメージって全体的に薄暗い上に、地下牢があって、そこにモンスターが大量に飼われてるような危ない感じだったのだが、この魔王城に関しては、ロビーの中央の上に巨大なシャンデリアがあって、薄暗いどころか、めちゃくちゃ明るいし、地下牢という物騒なのは無いらしいし、そもそもモンスターも飼ってないそうだ。


 あれ? これもう普通にホテルじゃね?


『あの、ところで気になったんですが、俺ら以外に他に人居ないんですか?』


『いえ、あとは食堂に勤めてるコックが3人が居ますよ』


 そういえば、既に色々な所を案内されたが、食堂はまだ見てなかったな。


『では、ちょうどいいので、食堂にご案内致しましょう』


 俺は無言で赤髪ちゃんの後ろ姿を堪能しつつ、粛々とついていった。

 

 それにしても、この魔王城……やはりどこかで見たような気がする……? 


 それに、もう1つ気になる事がある。さっきから謎のということだ。


 一体誰だ? 俺を見てるのは……?




『ダスト様、こちらが食堂でございます』


 あれこれと考えている内に、食堂に着いたようだ。


 赤髪ちゃんが食堂の扉を開くと、そこにはごく普通の長方形の茶色い机が横に1列に5つ、1つの机にそれぞれ10個のイスが左右にバランス良く並べられていた。


 イスの数めちゃくちゃ多いな……って部屋が50個あるから当然か。


 あれ? でもこの魔王城って、俺含めても7人しかいないから、こんなにイスいらないはずだよな。


 食堂をマジマジと覗いていると、金髪の小学生くらいの美少女が、ひょっこりと厨房から顔を出した。


『お? 赤髪ちゃん! どしたー? もうアタシらの料理を食べに来たのか?』


『ゴールドさん。いえ、この方、ダスト様を、食堂にご案内していたところです』


 さっき赤髪ちゃんが言ってた食堂に勤めてるコックの3人の内の1人が、この金髪ツインテールの美少女みたいだな。


『初めましてだな! アタシはこの魔王城のアイドルコック! ゴールドちゃんだよ! ゴールドちゃんって呼んで!』


『ゴールドちゃん』


『ああ! ゴールドちゃんだぜ! イエイ!』


 ゴールドちゃんは、とびっきりの笑顔で左手を伸ばしてピースをした。


 テンションたっかいな……あのふざけた爺さんと似たものを感じる……だが、ゴールドちゃんは、超絶可愛いから余裕で許せる。


 ただし、あのうざい爺さんは許さん。異議は認めない、断固として認めるわけにはいかない。


『あのー』


 今度は、さっきから机の下にずっと隠れていた2人のロリ美少女が、ひょこっと姿を見せた。


『お、シルバーにブロンズ! ちょうどいい、自己紹介しちゃいなYO』


 ゴールドちゃんがそう言うと、銀髪のショートヘアーの美少女が手を胸に置き、自己紹介をし始めた。


『初めまして、私の名前はシルバーです。お姉ちゃんと同じくコックです、よろしくお願いします』


『イエーイ! シルバーちゃん! 超可愛いよ!』


 ゴールドちゃんがまるでアイドルのファンの如く、ハイテンションでそう叫んだ。


『もう、お姉ちゃん! 恥ずかしいよぉ……』


 シルバーちゃんは、可愛いと言われて顔を真っ赤にしてしまい、恥ずかしさのあまり両手で顔を隠した。


 あ、これは可愛い。控えめに言って愛してる。


『次は、ブロンズちゃんの番だYO』


 次は銅髪のストレートパーマの美少女が、丁寧にお辞儀をすると、自己紹介をし始めた。


 末っ子みたいだが、なんかやけに大人びているし、色っぽいな。


『初めましてぇ、私はブロンズでぇす。ゴールド姉とシルバー姉と一緒で、コックやってまぁす、よろしくね、お兄ちゃん』


 お兄ちゃん……だと……!? なんて妹力なんだ……! ?ヤバい、妹属性に目覚めそう……。


『イエーイ! ブロンズちゃん! 超可愛いよ!』


『ありがと、ゴールド姉』


 ブロンズちゃんは、アイドルのように、ウインクをして、この場にいる全員を魅了する。


 ヤバい、ガチで可愛い。ゴールドちゃんも、シルバーちゃんも、ブロンズちゃんも。こりゃ俺もペンライト持って、愛を叫びそうだ。間違いない。


『えっと、俺の名前はダストです。よろしくお願いします』


 陰キャの俺は、地味で特に面白みもない自己紹介をした。


『おいおいダストっち!』


 ダストっち……?


『アタシ達に丁寧言葉なんて使わなくて良いってー! アタシなんて、まーちゃんにすら、丁寧言葉使ってないんだぜー?』


 丁寧言葉とはこちらでいう敬語の事を指している。細かい箇所は違うかもしれないが、おおよそ同じ意味だろう。


 まあ確かにゴールドちゃん達は俺よりも歳下のようだし、その方が自然といえば自然か。


 というか向こうも普通にタメだし、そういうことなら、俺もこの娘達に対してはタメ語でいいかな?


 そう思っていると、赤髪ちゃんが呆れたようにゴールドちゃんに注意した。


『ゴールドさん、ダスト様はお客様なんですから、もっと礼儀正しくするべきですよ?』


『堅いなー赤髪ちゃんは、だって礼儀正しくって、まるでみたいじゃん?』


 あいつら? 


 そう言ったゴールドちゃんの表情は少し曇っていたような気がした。


『あの、あいつらって誰の事ですか?』


『正義教団の事ですね。正義の行いしか許さず、もし彼等の前で、少しでも悪の行動をすれば、最悪死刑になります』


 うわっ、なにそれ……怖っ。


 そんなヤバい正義厨の集団とは関わりたくねえな。


『あいつらだけは許せねえよ……だってあいつらはアタシ達の……』


 ゴールドちゃんは辛い過去が頭に浮かんでしまい、身体を震わせながら、悔しそうに拳を握っていた。


 どうやら、正義教団という奴等を相当恨んでるらしい。


 シルバーちゃんやブロンズちゃんも、悲しそうに目を下に向けていた。


『あ、ごめんね、ダストっち! 大丈夫だよ! 今はこの魔王城で幸せにやってるからさ』


 ゴールドちゃんは、俺に気を遣わせまいと、すぐに笑顔とテンションを取り戻した。


『ゴールドちゃん……ホントに色々あったんだな……』


 俺はゴールドちゃんに敬語を使うのをやめて、タメで話すことにした。礼儀正しくないのかもしれないけど、今のゴールドちゃんにはこの方がいいと思う。もしかしたら敬語で話すと、嫌なことを思い出させるかもしれないしな。


『へへっ、ありがとなダストっち』


 ゴールドちゃんは、俺がタメで話しかけたのが、そんなに嬉しいのか、笑顔でお礼を言った。

 

『あ、お姉ちゃん、そろそろ夕ご飯作ろう?』


 そろそろ夕飯の時間に近づいている事に気付いたシルバーちゃんがゴールドちゃんにそう呼びかけた。


『お、そうだな、じゃあ赤髪ちゃん、ダストっち、あとでな!』


『おう、夕ご飯楽しみにしてる』


 俺は食堂をあとにし、赤髪ちゃんにまだ案内されていない所を案内してもらった。

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