第8話 聖女、決勝に挑む
魔族の精鋭部隊。
軍部のトップであるマルテに次ぐ実力者が揃う部隊であり、軍に所属する者達の憧れでもある。この部隊に配属されるのはわずか7人だけ。みな、この7人という狭き門を目指して日々切磋琢磨しているのである。
さすがに新米部隊達からも緊張感が伝わってくる。何せ憧れであり目標でもある精鋭部隊との対戦なのだ。会場で整列して、精鋭部隊の入場を待つ間、皆入り口をじっと見つめていた。
「それではお待たせいたしました。我が軍部が誇る精鋭部隊の入場でーーーーーすっ!!!」
司会者の声にも力がこもっている。
そして、その声に呼応するように、会場が雄叫びを上げた。その興奮する様から、精鋭部隊の人気の高さが伺えた。ちらりと横目で新米部隊の様子を見てみると、会場の人々と同じように目を輝かせて入場を待っている。
ーーすごい人気ですね。
マヤも少し胸を高鳴らせて待った。
物凄く強いとは、どこまで強いのだろうか。今までが拍子抜けだった事もあり、マヤも楽しみであった。
大きな歓声の中、ようやく7人が入場してきた。
妖狐に、巨人族、ケルピーと多種多様な種族が入ってくる。魔力も高く、かなり鍛えられた身体をしている。
「さあいよいよ決勝戦!!新米部隊はどこまで通用するのか!はたまた一勝も与えず精鋭部隊が決勝を勝ち取るのか!最初に戦うのはぁーーー!!彼らだぁ!!」
司会者の言葉を合図に、精鋭部隊からは妖狐が一歩前に出た。そして、新米部隊からも一人、一歩前に出た。
いよいよ決勝戦が始まる。
舞台には二人と審判だけを残して、皆退場していった。審判が二人の様子を確認し、たからかに宣言した。
「それでは試合はじめ!」
「『
開始の合図と同時に、妖狐は魔法を繰り出してきた。それに対し新米は緊張でなかなかすぐに体が動かない。口をぱくぱくさせながら、慌てて防御魔法の準備をしている。
けれど、勿論相手はそんなの待ってくれない。
放たれた弓矢が彼の体を貫いた。
体中を炎が覆い尽くし、その熱さに表情を歪めた。そして、その場に膝をついた。
「審判さん、早く勝敗を言ってあげないと、彼、死んじゃうわ。」
妖狐の火が転がって消せるわけもなく、彼を焼き尽くしていく。
しかし、彼はゆっくりと立ち上がった。
「え……。」
まさか立ち上がってくるとは思わず、妖狐は目を丸くした。
「聖女様に鍛えられたらこのくらいの炎、耐えられるようになりますよ。」
「……どんな訓練してるのよ。」
妖狐は少し笑った。
そしてもう一度魔法を繰り出した。
「『
先程の弓とは比べ物にならないほど大きな弓矢である。
「じゃあこれも耐えられるわよね。」
そして、容赦なく放たれた。
さすがに無理である。
加減を見ながらギリギリを攻めてきていたマヤの聖魔法と違い、こちらは本気なのだ。
これが、実力の差。
「勝者!精鋭部隊!」
さすがに、決勝戦の対戦相手である精鋭第一部隊は、強かった。新人がどんなに鍛えて挑もうとも、とても敵うはずもない経験と、それに裏付けされた実力の差であった。
その後も、ほとんど瞬殺に等しく精鋭第一部隊の一人目・妖狐に次々とやられていってしまった。
「強いーー!!さすが精鋭!!力の差は歴然だあーー!!」
司会者も絶賛している。
そんな声を聞きながら、マヤは傷ついたアルコへと近付いていった。
「大丈夫ですか?アルコさん。」
「聖女様……。」
アルコは怪我はしているものの、立てない程ではなく、自ら立って退場しようとしていた。
マヤの声かけに、アルコは泣き出しそうな表情になった。
「すみません。負けちゃいました。」
悔しい。
あんなにマヤが怖くて訓練していただけのはずなのに。
強くなりたい、アルコはそう感じていた。
そんなアルコの頭を、マヤは優しく撫でた。
「あとは任せてください。」
あんなに恐怖していたマヤの笑顔に、こんなに励まされる日が来るとは思わなかった。
天使のように微笑むいつもと変わらない笑顔に、アルコは心が救われる気持ちになった。
「聖女様……」
マヤは振り返らずに、試合へと向かっていった。
新人騎士達を悉く倒していったのは妖狐の騎士だった。
「あなたが最後の相手ね。」
「はいよろしくお願いします」
二人は軽く挨拶を交わすと、互いに目を合わせたまま、黙った。
その様子を見て、審判が高らかに宣言した。
「はじめ!」
「『
マヤが唱えると、白いクロスボウが現れた。鋭い矢先を相手に向けてトリガーに手をかける。
その様子を見て、妖狐はクスリと笑った。
「『
マヤとは違う真っ赤な和弓が現れる。マヤと同じようにマヤに矢を向けて構える。その矢は炎を纏っていた。
「おおーっとお!!何と弓使い対決だあぁーー!!」
興奮した司会者が大声で叫んだ。
「さっきのハーピーの子も弓使い使いだったね。新人騎士達は弓に力を入れて練習してきたの?」
「いいえ。それに、私は弓使いではありません。」
マヤは妖狐に狙いを定め、矢を放った。
妖狐も相殺しようと矢を放つ。
しかし、マヤの矢は妖狐の矢を無効化し、妖狐へと突き刺さった。
「ぐっ……。」
妖狐の太ももに的中した矢は、温かい光を放った。そしてじわじわと妖狐の太ももを浄化していく。その焼けつくような熱さに、妖狐はうめき声をあげてうずくまった。
そんな妖狐にいつの間にか歩み寄っていたマヤは、屈んで妖狐の傷口に手をかざした。
「私は弓使いじゃなくて、聖女なんですよ。」
突然目の前に現れたマヤに妖狐は息を呑み、何も言えず、そして痛みで動くことも出来ず、ただ驚いていた。
「『
「きゃああぁぁぁぁぁあっ!!」
マヤの回復魔法は、聖魔法の一種であり、魔族以外の怪我を治すものの、魔族には電撃のような痛みを与えるのだ。
妖狐はトドメをさされ、悲鳴をあげてその場に倒れた。
「勝者!マヤ!」
審判の声に、会場はどよめいた。
初戦で会場全体を浄化した以外でマヤが戦う姿は見ていなかった。初戦だって、浄化しかしていなかったのだ。
今回、マヤの攻撃魔法が妖狐の攻撃を押しのけた。それは、マヤの魔力が高かったからである。その後の動きもかなり速かったことから、身体能力が高いのもわかる。
新人達の快進撃を偶然だと思っていた観衆達は動揺した。
「すごい。」
「聖女様って、やっぱり強かったんだ。」
そんな中、聖女の実力を身をもって知っている新米騎士達は、素直に感動していた。強い強い、とは思っていたものの、ここまで強いとは思っていなかった。
しかもマヤはまだ力を出し切っていない。
いつもと変わらない様子に、新人騎士達はぞっとした。
ーー自分たちを鍛えてきた聖女って、どれくらい強いんだ。
知りたいような、知りたくないような。
そんな思いで試合を見守っていた。
マヤは次の相手を軽く『祝福』で浄化して勝利を収めた。
チームメイトのために、少し時間をかけてじっくりと戦った妖狐だが、次の相手にはそこまでしてやる義理はない。
さっさと終わらせて、本命を出してもらいたいのだ。
「マヤちゃん。」
妖艶な笑みを浮かべ、マヤの前にようやく本丸が出てきた。きっちりと軍服を着ており、スタイルの良さが強調される。
「お互い頑張りましょうね」
「はい。よろしくお願いします。」
ふんわりとした雰囲気は相変わらずで、マヤもいつも通り一礼した。
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