第4話『嫉妬の魔神③』

 結愛は息を切らして過呼吸になっていた。

 安心と同時に恐怖を思い出したのだ。


「はぁはぁ、瑞希……もう大丈夫」


 軽く肩を叩かれた瑞希は、恐る恐るソファの下から顔を出し、周りを見渡した。


「行ったみたい」


 結愛もソファから出る。

 そこで妙なことに気付く。


「鎖が短くなってる。私と瑞希の手錠がこんな近くにある」


 お互いの手錠の距離がほぼゼロ距離になっていた。

 よく見ると、手錠の間にあった長めの鎖が、手錠の中に収まっている。


「もしかして」


 結愛は何かに気付いたように、手錠の掛かった方の手を上に引っ張った。

 すると、手錠の中から鎖が引っ張り出され、長さが固定された。


「やっぱり、メジャーやブラインドに使われてる性質と同じだ」


 結愛はすぐにメモ帳と鉛筆を取り出した。

 瑞希は不思議そうに手錠と鎖を弄っている。

 結愛はそんな瑞希に、

『手錠の性質と鎖の長さを調べる、めいいっぱい鎖を引っ張って』

 と書かれたメモを渡す。


「分かった」


 二人は立ち上がり、部屋の端と端に向かって歩き、鎖を限界まで伸ばした。

 鎖が伸びなくなると、結愛が瑞希に『楽にして』と言う合図を出す。

 瑞希は引っ張っていた手を楽にする。


「あ!」


 すると瑞希は、鎖に引っ張られて床に転げ落ちた。

 すぐに鎖を引っ張り、鎖の長さは固定させる。


 結愛は転けた瑞希に近寄り、

『確信した。この手錠は引っ張って長さを固定し、もう一回引っ張れば縮む。ブラインドとかに使われてる性質と同じ』

 と書かれたメモを渡す。


「なるほど、じゃあ程よい長さにしておこうか」


 二人は鎖の長さを調節すると、蛇ちゃんが出て行ったドアの前まで移動する。


「さっきはごめんなさい、僕のせいでの結愛に怪我させた」


 言いずらそうに瑞希が言った。

 結愛は(気にしてたのかな?)と思いながらも、優しい笑顔を見せ「大丈夫」と口の動きで伝える。


「じゃ、じゃあ、この隙間から出よう」


 瑞希は目を逸らし、少し空いていたドアの隙間から部屋を出た。


 * * *


 部屋を出た右側には、二階に登った時に使った階段がある。

 左側の少し遠くには、二人がこの家に入ってきた人間サイズの隙間がある。

 そして、今居る場所から見える奥には、玄関のような扉がある。


「あのドアから逃げよう」


 二人は奥の扉まで駆け足で走った。


「僕が結愛を持ち上げる」

「お願い」


 近くにあったゴミ箱を反対にし、そのゴミ箱に登る。

 そのゴミ箱の上で、瑞希が結愛を持ち上げ、扉のドアノブにぶら下がった。

 しかし、鍵が掛かっていて開かない。



「ダメだ」

「これ、使って」


 瑞希はバッグの中から大きな鍵を取り出す。

 結愛はその鍵を手に取って首を傾げた。


「さっき二階で拾った」


 鍵は扉の鍵穴に入り、ガチャッと音を立てた。

 どうやら扉の鍵が空いたようだ。


「おぉ、やったぁ」


 扉を開け、落ちてくる結愛を瑞希がキャッチする。

 鍵は鍵穴に入ったままだが、二人にはもう必要のない物だ。


「やるね瑞希、ちゃっかりしてる」


 結愛は瑞希の手元から降りて軽く笑った。

 瑞希には何を言ったかのか分からなかったが、笑顔だけである程度の気持ちが伝わっていた。


「何だ?さっきの暗い空間とは全然違う」

「ほんとだ、奥にあるのは……畑?妙に明る過ぎる」


 二人は扉の奥にあった光景を見て驚いていた。

 先程の崩壊した街並みとは違って、あるのは太陽に照らされたような明るさと、森のような緑だった。

 目の前の光景は畑のように見える。

 しかし、サイズ感は化け物サイズだ。

 瑞希達からしたら、森や林のような畑だった。


「行ってみよう」


 二人は辺り一面に広がる畑に近寄った。

 麦、じゃがいも、ピーマン、その他たくさんの種類がある。

 しかし、ほとんどが腐りかけてる。


「大きい、私達の体くらいのトマトがある」

「にしても明るい」


 まるで日が差しているかのように明るく、暖かい環境に違和感を覚える。


「結愛、上見て」

「な……何あれ?」


 二人は違和感に気付いて上を見上げた。

 そこには、小さな太陽があり、瑞希達を照らしていた。

 太陽は近くにあるにしては熱くない。

 熱いと言うよりは、暖かいと言った方がいい熱を放ってる。

 どちらにせよ、蛇ちゃん同様に、この世の法則を覆すような物には間違いない。


「浮いてる……宇宙にある訳でもないないのに」

「ここは僕達が知る世界じゃないのかも……地球とは異なる世界なのかも」

「そう、かもね」


 二人が疑問を整理するが、答えは出ない。

 ただ一つ分かっていることは、二人に安全や安心はないということだ。


「雨?」


 突然、二人の元に雨が降り出した。

 結愛はふと上を見上げる。


「嘘……」


 結愛は慌てて瑞希の口を抑えて、大きなトマトの下に隠れた。

 それは、上を見た時に蛇ちゃんの姿を確認したからだ。


「グアアアァ」


 二人が雨だと思っていたのは、蛇ちゃんが注いだじょうろの水だった。

 森のような畑のせいで、蛇ちゃんが居ることに気が付かなかったのだ。

 口を抑えられた瑞希も、上を見上げて蛇ちゃんが居ることを確認する。


「やばっ」


 水を注ぐのを止めた蛇ちゃんが、瑞希達の居るトマト畑の元に、ゆっくりと顔を近寄せる。

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