第3話『嫉妬の魔神②』

 ボロい板を並べられただけの階段の上で、結愛がメモ帳と鉛筆を取り出す。

『おかしいの、蛇ちゃんはこの階段を登れない』。

 そう書かれたメモを見て、瑞希が考え込む。

 そして周りを見渡す。


「あそこに、蛇ちゃんでも登れる、道がある」


 瑞希が指を指したのは、車椅子でも登れるスロープのような道だ。

 階段から少し離れた場所にある。


「じゃあなんでわざわざ階段を作ったのかな?ん〜、もしかしたら蛇ちゃん以外にも化け物が居るのかも」


 結愛は後味の悪い疑問を残し、二階の探索に向かった。


 二階に部屋は三つあった。

 どの部屋も、体育館の半分くらいの広さだ。

 一つ目の部屋は寝室。

 大きなベッドが一つ、周りには本棚、それとテレビのような物。

 ベッドは埃がかぶっていて、何日も使われてない様だ。

 それに本棚に並ぶ本は手作りだ。


「次、行ってみよ」


 二つ目の部屋は物作り部屋。

 中央には大きな机があり、机の上には人間のポスター、近くには作りかけの男の人形。

 周りには誰かが作ったと思われる物やガラクタが沢山散らばっている。

 明らかに何かを作る為の部屋だ。


「この人形、ポスターに載ってる男の人を見て作ってるのかな?」


 二人は周りのガラクタを使って机の上に登った。

 ポスターに載ってたのは、幸せそうに手を繋ぐ男女、それと『恋と青春』と書かれた文字。

 どうやら映画ポスターのようだ。


「出口もなさそう。次行ってみよ」


 三つ目の部屋は空き部屋。

 ボロボロの壁と床、壁に空いてるいくつかの穴、それ以外何もない。


「ごめん、また下に戻る事になった」

「待って」


 瑞希が申し訳なさそうに引き返そうとするが、結愛が瑞希を引き戻した。

 結愛は『床に穴、穴のすぐ下には足場があるからここから降りれる』と書かれたメモを瑞希に渡す。


「ほんとだ……僕が先に行く」


 人が一人入れる穴から、瑞希がゆっくりと下に下がった。

 ギリギリ足が届かなかったが、特に問題はない。

 瑞希が足場にしたのは、大きなタンスのような物だった。


「来て、大丈夫」


 安全確認を終え、瑞希の手を取って結愛が足場に下がる。

 問題はここからどう下りるかだ。

 取り敢えず下を見渡す。


 下には大きなソファ、テーブル、シャンデリア、転がるボール。

 どれも人間サイズではないが、床にゴミのように転がる物は本だったり、ダンボールだったりと人間の物がそれなりにある。


「僕が先に行く」


 瑞希が助走を付けて飛び付き、シャンデリアにぶら下がった。


「気を付けて!崩れそう!」


 結愛は聞こえない瑞希に向かって、思わず叫んでしまった。

 それ程、瑞希が危なっかしい。


「下のソファに、行けるか?」


 瑞希は下を見て息を呑む。

 その瞬間、持っていた場所がパキッと音を立てて折れた。


「あ!」

「瑞希!」


 瑞希は目を瞑った。

 妙なことに、まだ落ちた感覚がない。


「……」


 恐る恐る目を開けると、手錠から繋がれた鎖にぶら下がっていた。

 横を見ると、同じように鎖にぶら下がる結愛が居る。

 どうやら、瑞希より先に結愛が落ちたことにより、お互いの体重でシャンデリアにぶら下がれたらしい。


「怖かった……咄嗟の判断だったよ」

「迷惑かけた……ごめん」


 ガシャンッ!と、シャンデリアが下がる音が鳴る。

 重みに耐えられなくなったシャンデリアが、今にも天上から外れそうだ。


「ソファに向かって落ちて!」


 結愛が下のソファを指を指して言った。

 指の方向を見て意味を理解した瑞希は、結愛に合わせて体を揺らす。


 ガシャン!


 とうとうシャンデリアが音を上げ、床に激しく落ちた。

 一階に大きな音が響く。


 幸い瑞希に大きな怪我はなく、無事ソファの上に着地出来た。

 だが、結愛はシャンデリアに体を挟めてしまった。


「結愛!今助ける!」


 瑞希は慌ててシャンデリアを持ち上げる。

 だが、結愛が怯えた表情をして、必死に身振り手振りをしている。


「来た!化け物が来た!向こうから来る音がする!」


 瑞希は結愛の言っている事が分からなかったが、結愛を助けることを優先した。

 シャンデリアから体を抜け出した結愛は、痛めた肩を抑えながら瑞希の手を握った。


「え?」

「早く!静かに!」


 ドキッとした瑞希は、次の瞬間もっとドキッとすることになる。

 部屋の扉が開かれ、明かりが部屋に射し込んだ。

 結愛は瑞希の口の前に手を持ってきて、息を潜めるように目で伝える。


 耳が聞こえない瑞希も流石に気付いた……部屋に蛇ちゃんが入ってきたことに。

 蛇ちゃんは壊れたシャンデリアを上から除くように部屋を見渡している。

 瑞希と結愛は息を潜め、ソファの下に潜り込んでいた。


 ガシャガシャ、ガシャガシャ。

 結愛には蛇ちゃんがシャンデリアを触る音が聞こえていた。

 その為、恐怖度は瑞希よりも上だ。

 心音が体全体に響き、手汗や震えが止まらなく、吐き気がする程息苦しい。


「グアアアァァァ」


 声を飲み込むような蛇ちゃんの声。

 そんな声を最後に、蛇ちゃんは部屋を出て扉を閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る