第2話『嫉妬の魔神①』
結愛は自分の手と瑞希の手が手錠と鎖で繋がれているのに気が付いた。
「外れない」
外そうとしても外れないので諦める。
気持ちを切り替えるように医療箱を開け、ガーゼと医療用テープを取り出す。
「耳、手当するね」
自分の耳を指さし、瑞希に分かるように口をゆっくり動かし喋る。
瑞希はジェスチャーを理解し、大人しく耳元の髪をかきあげる。
手当は数分で終わった。
ジンジン傷んだのが和らいだようだった。
「不思議、耳がないと聞こえないんだね……鼓膜が無事なら聞こえると思ってた」
手当した瑞希の耳元を見て、結愛が独り言を言った。
「ん〜、テープだけじゃ剥がれちゃうかも」
結愛はそう呟きながら、瑞希の首に掛かっていたヘッドホンを耳元に当てた。
見た目は不自然じゃない。
傷を上手く隠せてるし、ガーゼを押さえ付ける役割も果たしている。
瑞希は少し戸惑いながらも、ヘッドホンに手を当てて気に入ったような安心の表情を見せる。
結愛はそんな瑞希にメモを渡す。
『荷物確認したら外の様子を見に行こう』。
瑞希はコクッと頷き、ショルダーバッグの中身を確認する。
瑞希が手に持っていたショルダーバッグの中身は、
チョコレート、缶ずめ二個、ペットボトルに入った水、鉛筆とメモ帳、懐中電灯、血のついたナイフ、耳二つが入った袋、壊れたビデオカメラに入ってたSDカード。
結愛が手に持っていたショルダーバッグの中身は、
チョコレート、缶ずめ二個、ペットボトルに入った水、鉛筆とメモ帳、懐中電灯、医療箱の中身、小さな鍵。
「何の鍵?」
結愛はショルダーバッグの中に入ってた鍵を手に取り、不思議そうに眺めた。
「確認した」
「じゃあ……行こう」
鎖で繋がれた二人はぎごちない。
それは二人きりの状況で、まだ信頼できる相手ではないからだ。
裸足の瑞希、タイツ越しでほぼ裸足の結愛、平坦な道を好んで選び、足を痛めないようにゆっくり歩く。
何もかもが不気味な世界、現世だとは思えない。
しばらく歩くと、崩壊した街並みの奥に微かに光が見えた。
でこぼこの壁の真ん中に、二人が入れる隙間がある。
少しでも希望のある方へ、二人は光が差し込むドアの先を進んだ。
* * *
目を疑った。
隙間の先に進み、二人が最初に見た光景は、巨大な蛇が目の前を横切る光景だった。
蛇と言っても、頭には人間のような顔と長く不潔な髪の毛があり、胴体の太さだけでもジンベイザメ並だ。
長さは軽く200m。
おまけに、胴体からは人間の手のような物がたくさん生えている。
この世の生き物とは思えない、化け物と呼ぶに相応しい存在だ。
気味の悪い人の手を足のように使い、地面を這いずるように進んでいる。
幸い、二人の目の前に通ったのは、胴体の部分だったので見つかることはなかった。
二人は黙ってその化け物が去るのを待っていた。
化け物が去って、息をしたのは随分後のことだ。
静まり返った中、結愛は腰を抜かして地面に座り込んだ。
「何なの?ここは一体何?」
その一言は声が震えて息が乱れていた。
結愛はそのまま、今にも泣きそうな表情で、縮こまって怯えてしまう。
肩や歯を震わせ、今にも泣きそうだ。
瑞希はそんな結愛を見て、ほんの少し安心を覚えた。
怯えた結愛を見て、責任と勇気が沸いた。
「ゆ……あ、大丈夫だよ」
瑞希が結愛に手を差し伸べた。
結愛は戸惑いながらも目を擦り、瑞希の手を取った。
足が震えて体が思うように動かない。
「瑞希は怖くないんだね」
「なんて、言ったの?」
「何でもないよ」
瑞希はジェスチャーで『何でもない』と言った事が分かった。
お互いに握ってる手は冷たい。
「あの化け物に、見つからないよう、ゆっくり行こう」
瑞希が提案する。
だが、結愛は握ってる手を見たままで反応がない。
「あっ、ごめん」
瑞希は後ろめたい気持ちになり、すぐに手を離した。
「気にしてないよ」
瑞希は結愛の表情を見ずに歩き出した。
手を離したことで、結愛は少し怖くなっていた。
少し歩いた二人は気付き始めていた。
先程見た景色と違って、周りの景色が明るいこと、崩壊した街並みの代わりにある大きな机や階段、見覚えのある家具。
人が使う道具に似てるが、何処となく違う。
まるで真似して作ったような歪な形だ。
今居る場所は外と言うより家の中のようだった。
「蛇ちゃんの······住処かな?」
瑞希の呟きに結愛は首を傾げた。
結愛は歩きながらメモ帳と鉛筆を手に取り、
『蛇ちゃんって?』と書かれたメモを瑞希に渡す。
書かれた字は震えてガタガタだった。
「さっきの、化け物の、呼び名」
「瑞希って変わってる」
結愛が鼻で笑ったように見えた。
似合わない呼び名に、思わず笑みが零れた。
「階段の上に、行こう」
瑞希が階段と呼んだ物は、階段と呼ぶには登りずらい。
足場となる板が階段のように並んでいるだけで、登るのに適していない。
そもそも人間サイズではないので、瑞希達には登れなそうだ。
「僕が、結愛を、抱える」
瑞希は肩車で結愛を持ち上げ、一段目に結愛を上げた。
板と板の隙間から落ちてしまいそうで、思わず息を呑んだ。
次に、結愛が瑞希を引っ張り一段目に登る。
これを七段繰り返し、ようやく二階に登れた。
「……疲れた」
二人は息を切らしている。
「部屋がいくつかある。行こう」
瑞希は立ち上がり、大きな扉が見える場所へ行こうとする。
だが、結愛が動こうとしない。
「結愛?」
「蛇ちゃんの体じゃこの階段は登れない……体から生えた手で登っても、こんなボロい板体重で潰れてしまう」
「なんて、言ったの?」
結愛は疑問を前に立ち上がれなくなっていた。
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