0章

第1話 『夢野 瑞希』

 夢野ゆめの 瑞希みずきは薄汚れたベッドの上で目を覚ました。

 妙に気分が悪い、頭がガンガンする。

 記憶も曖昧……とゆうより記憶喪失ぽい。

 自分が何者か分からない。


 周りを見渡し、見慣れない場所だと気付く。

 見た事のないぐらい汚い夜空、気味が悪く薄暗い空間、崩壊した街並み、遠くに景色なんて物はない。

 ホラー映画に出てきそうな世界観だ。

 瑞希が居たのは崩壊した建物の影になってる場所だ。


 瑞希は自分をよく見てみる。

 少し汚れてるパーカー、首に掛けたヘッドホン、裸足の足、パーカーには血が付着している。

 何の血だ?そう思い自分の体を撫でるように触る。

 耳元を触った時、気持ち悪い感触を味わった。


 血が出ているのは分かった、だがそれだけでない感触だ。

 耳の形がしない、代わりにあるのは暖かい肉の感触。

 一旦冷静になり、床を見てみる。

 そこには人の耳が二つ、かなり最近に切られた感じだ。

 自分の耳だとすぐに理解した。

 先程から何も音がしないとは思っていた……まさか耳がなくなっていたとは思わなかった。


「あー!あぁぁぁ……うんんん」


 痛みを思い出し、少し静かに痛がった。

 よく見れば、ベッドにも血が付着しており、血は止まりつつある。

 ジャラジャラ……音は聞こえないが金属が擦れる感覚がした。

 腕を動かした時に気付いた。

 左手に手錠がかけられている。

 手錠からは鎖が伸びており、何かに繋がれてる。


「んん」


 鎖の先には黒のセーラ服を着た女の子が居た。

 今まで気付かなかった。

 女の子の耳は……しっかり付いてる。

 今にも起きそうな彼女を見て瑞希は戸惑う。

 変な勘違いをされないか心配だ。


「……誰?」


 女の子は目を覚ましてすぐに瑞希に気が付いた。

 面識のない二人は、お互いに警戒しつつ観察する。


「……」


 耳が聞こえない瑞希は、女の子の質問が聞こえない。

 それでも何か言ったのは口の動きで分かった。


「ごめん、僕耳がなくなっていた……君が何を言ってるのか分からない」


 瑞希は床にある耳と自分の耳元を見せながらゆっくりと言った。

 女の子は驚いた様子で口元に手を当てた。


「えっと……ちょっと待ってね」


 女の子のジェスチャーは『少し待って』と言っている。

 すると女の子は、キョロキョロして周りを見渡し始める。

 何かを探してるように周りの物を手に取っては手放す。

 周りには瑞希の耳が二つ、空の注射器が二つ、医療箱が一つ、ショルダーバッグが二つ、耳を切ったと思われる血のついたナイフが一つ、それと女の子の下敷きになっていた壊れたビデオカメラ。


「……あった」


 女の子はショルダーバッグから鉛筆とメモ帳を取り出した。

 女の子の様子を見た感じ、バックの中身は知らなかったらしい。


「貴方の……名前は?」


 言葉と共にメモ帳に『貴方の名前は?』と書いた。

 瑞希はそれを見て少し困った表情を浮かべる。


「分からないんだ……名前どころか何でここに居るのか、誰に耳が切られたか、いつ来たのか」

「え?……それ本当?あ……」


 女の子は瑞希が耳が聞こえない事を忘れるくらい驚いた様子だった。

 慌てて鉛筆とメモ帳を手に取り、『本当に?信じられないと思うけど私も同じ。恐らく私達は記憶喪失なんじゃないかな?』とメモ帳に書いた。

 瑞希はメモを見て、辛そうにしていた目を見開いた。


「もしそうなら困った。取り敢えず……荷物、確認、しよう」


 瑞希はそう言って恐る恐るショルダーバッグに手を伸ばす。

 瞬間、女の子が瑞希の肩を叩く。

 瑞希は少しビックリしながらもゆっくりと振り向く。

 女の子はメモ帳に何かを書く。


「はい」


 女の子はメモと学生証を渡して来た。

『ポッケに入ってた、私の名前と学校名が書いてる』

 メモの内容を確認にし、学生証を見る。


 重要な場所だけ見れば、

 山梨第一中学校、3年A組、神崎かんざき 結愛ゆあ

 あとは顔写真や必要のない情報だ。


 山梨県に住み、神崎 結愛と言う名前の女の子。

 それが分かっただけでも充分だ。


「ん?」


 瑞希はまたもやメモを受け取る。

『もしかしたら貴方も持ってるんじゃ?』

 瑞希は急いで服を探った。


「……あった」


 瑞希の学生証はポッケに入っていた長財布から出てきた。


 山梨第一中学校、3年A組、夢野ゆめの 瑞希みずき

 どうやら女の子――結愛と同じ学校、同じクラスらしい。


「瑞希、よろしくね」


 女の子――結愛が瑞希に握手を求めた。

『よろしく』そう言ってるのが分かった瑞希は、緊張と警戒を混じえた手で結愛の手を握った。



 これは夢野 瑞希が愛と狂気に染まり、闇に堕ちていくまでの物語。

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