赤い薔薇が似合う彼の話

私の好きな彼は誰よりも赤い薔薇が似合う。

赤い薔薇を見かける度に彼が脳内に浮かんで、彼が手に持つ姿を思い浮かべるぐらい、彼は赤い薔薇が似合う。

彼は外国人の血が混じっているらしく、日本人離れした綺麗な顔をしていて、それが一層彼と薔薇を結び付けているのかもしれない。彼自身は、綺麗な顔じゃない、不細工だと言うけれど、全くそんな事無くて私にとってはとても綺麗な整った顔だ。私は顔が可愛い方でも整っている方でもないので、もしかしたら彼は私に遠慮してそう言っているのかもしれない。それならとても申し訳ない気持ちになる。


今、彼と私は遠距離恋愛だ。

私の方が少し年上で、私の方が財力はある。彼は下に沢山の兄弟がいる長男でいつも苦労している。私の方がお小遣いを貰っているし、私の方が稼ぐ手段を持ち合わせている。本当は私の方から彼に逢いに行くべきなのだろうけど、残念ながら私には時間が無い。

一応私の本業は学生で、成人したとはいえ彼とは家が遠い。行こうと思えば行けるし財力もあるが泊まりがけでの訪問になってしまう。

やはり彼の家には厄介はかけられないし、どこか泊まるにしても最低1泊2日はかかる。私の学校は土曜日も授業があるし、土日祝日関係なく外部活動が入ったり、授業が入ったりする。2日以上連続の休みなんて滅多にない。冬休みか、夏休みぐらいだ。その中でもお盆と年末年始。年によってはそこさえも何かしらの用事で潰れてしまったりする。


ただ、今私は彼にあって赤い薔薇を1輪手渡ししたい。彼の一番好きな花は赤い薔薇だ。彼が嬉しそうに笑いながら赤い薔薇を両手で持って笑っている写真が撮りたい。彼が喜んでいる顔が欲しい。危うくば私の横で毎日赤い薔薇を手に笑ってくれてもいい。もしそんなことがあれば私はどんなに幸せなことか。

100本の赤い薔薇なんてものをドラマやアニメといったフィクションで沢山見てきたけど、私にとっては100本の赤い薔薇を抱える彼よりも、1本の赤い薔薇を大切に大切にしてくれる彼の方が見たい。もしかしたら、彼は赤い薔薇を100本欲しがるかもしれないが、それは結婚式のときでいい。


結婚式の時は薔薇100本のブーケを作って、赤い薔薇をあしらったドレスを着てやろう。そして、彼の好きな猫耳を付けてやる。なぜこのドレスにしたのか、親に聞かれても親友に聞かれても従兄弟に聞かれても、彼のご両親に聞かれても、「彼と私が赤い薔薇が好きなので」と答えるつもりだ。

好きな物を好きって言って何が悪い。結婚式なんて一生に一度。それなら私と彼の好きな物に囲まれながら迎えたい。もちろん私にとって最愛の彼が横にいる前提だ。私は彼と教会でキスをして、そしてブーケトスをする。

その時彼の虫歯が私にうつったっていい。その時は私も腹を括って大嫌いな注射を我慢して、麻酔をして歯を削れば良いだけの話だ。彼の口臭がもしも臭かったら、後でみんなにそれがバレないように私もニンニクを丸かじりしようと思う。2人とも臭ければきっともう誰も何も言わない。


私はそれぐらい彼のことが好きだ。愛している。

彼の真顔も、彼の白目も、彼の変顔も好きだ。

彼のどんな表情も私は好きだ。

泣いている顔も怒っている顔も、全てそれすらも愛しいと感じられる。

寝顔はまだ見た事ないけど、通話の時恥ずかしそうに笑う彼はとてもとても可愛く、愛しかった。少しいじるとさらに恥ずかしそうに笑う彼。そんな彼を見つめていたら思わず私も恥ずかしくなって笑ってしまった。





そんな彼。





実は今、彼は私の隣にいる。

私の座っているソファーの隣に腰かけ、膨らんだ私のお腹を撫でながら、私のお腹に向かって微笑んでいる。

赤い首輪をした黒猫のローズは彼の膝の上に乗っている。

私はそんな彼が愛おしくって、ニコニコしながら彼の顔を見つめた。



「「愛してる」」

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