第19話
5月31日は富埋洋一の75歳の誕生日。夕方6時から恒例の誕生会が開かれる。黒塗りの高級車が入れ代わり立ち代わり門前に停まって、スーツ姿の恰幅のいい紳士や淑女が吐き出され、門の中へと消えてゆく。現場近くには数名の刑事が配置されているものの、中には入れてもらえないようだ。門外のカメラでは50名以上の客が映し出された。
数馬はゾロゾロ入る招待客の鞄持ちの振りをして、会場に入り蠅型や毛虫型の盗聴カメラを設置し、ボディーガードらしい男の髪の毛を追って、トイレにまでついて行ったり、ぶつかるふりをして肩についた毛を取ったりして集めていた。ぎろりと睨まれることもあった。12人もいた。集めた順番に顔写真も撮った。カメラを通して見ている一心は、ばれるんじゃないかと気が気じゃない。
数馬が一連の作業を終えて事務所に戻った時には、五稜正司議員の来賓挨拶も終わり、騒めいている。というよりは、メンバーは紳士淑女の筈だが、烏合の衆が蜂の巣をつついたようなバカ騒ぎをしている。といった方が的を射ている。
髪の毛は、警部に渡して、汗をかいたと言って、シャワーを浴びに奥に引っ込む。
美紗がボディーガードらしき人物の顔を抜き出して印刷する。警部が見て
「澪さんのガードマンだ」
「いや、それは五稜議員のボディーガードだよ。澪のガードマンがこんなとこには来ないし、そうすると議員のボディーガードがいない事になる」
警部は、頭では分かっている、でも、実際に澪のガードマンに会ってるから間違いはないという自信もある。そんな表情で首を捻っている。
「同じ人がやってるか、同じ警備会社がやってるんじゃないの?」
美紗が警部に救いの手をだす。パンと手を叩く警部。
「そうだ、同じ会社だからたまたま同じ人がボディーガードしてたんだ。美紗えらい!議員に会って確認してくるわ」
美紗は12名のボディーガードの顔写真と、十和誘拐犯の顔写真の照合する。
4名が一致した。そして数馬が撮った議員のボディーガードの写真とも照合する。
こっちも見事に一致した。
「やったー、十和襲ったやつ議員のボディーガードだ」
警部の目が光る。
「どれ」美紗を押しのけパソコン画面を睨む。美紗が4人を一人ずつ画面に表示する。
犯行時の顔、パーティー会場の顔、議員のボディーガードの顔を並べる。
「確かに同じ顔だ」
髪の毛と、写真を抱えて警部は事務所を飛び出して行った。
澪がボディーガードの一人とベランダで一言二言言葉を交わす。口元は映し出されているが声は聞こえない。距離があるし、騒々しいからだ。
美紗はその部分を切り取って、パソコンのキーを忙しく叩く。
「『おかあさんぶじはいれた』と澪の唇が動いている。『やばいしごとだたけどありがとうございました』と男の唇。そういう会話だ。意味わからんけど。男は議員のボディーガードの一人だ」
美紗の作った口元解析ソフトの力だ。
「美紗!それ警部に送ってやれ、なんか事件がらみの会話に聞こえる」一心には先が朧げに見えてきた。
「送った。顔写真つけて」
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