第18話

 新年度が始まる。探偵も一応は決算がある。法人なんで3月決算にしている。とは言っても全部美紗任せ、パッケージを使ってるので、データを入力したら書類ができるらしい。ただ、毎年ソフトの更新が必要でそれが面倒らしい。いずれにしても、利益はマイナス。プラスになった事はない。だから税金は少ない。給料も少ない。


 昼過ぎに丘頭警部が顔を見せて、岡引探偵事務所の会議が始まる。静が2週間以上に渡る盗聴結果を、端末ごとに分けてメディアに落としたのを警部に差し出す。そして説明が始まる。

手元には簡単にまとめたものが配られている。

 

 澪の盗聴器から聞こえた会話。

澪は国会議員の五稜正司(ごりょう・まさじ)と不倫の関係にある。ホテルで数百万円を渡した。荷物は6月15日20時倉庫と聞こえた。

「議員の荷物って何だ?」

一心が首を捻る。

「澪が金を渡してるから、何かを買ったのか?」美紗が答えるが歯切れが悪い。

数馬、一助はお手上げ。

それで数馬が議員にも盗聴器をつける事にする。

「国会議員ならボディーガードもいるんじゃないか?」警部が数馬を見てウィンクする。「いたらそっちにも付けて、念のため」

苦笑いの数馬が頷く。

「澪のボディーガードは?どうだった?」

「まだ、交代で4人いて、話は聞き終わって、今裏を取ってるとこよ」

「写真は撮ってないのか?」

一心に言われて、

「そうねえ、誘拐の現場写真あったのに、撮って無いわ・・ゴメン」

「いや、良いんだ。警察が事情聞くのにいちいちカメラ向けられないだろうから」

「流石、一心優しい」


 一行と兼伸の親子の会話。

二重帳簿が存在し、正規の帳簿を滝上が課長の鍵の掛かる抽斗から盗んだ。彼以外考えられない。まだ見つからない。葬儀の時、親に頼んで彼の部屋を見せて貰ったが無かった。現物だけでなく鍵類も探したが無い。彼女の部屋も探したが無かった。何処か我々の気付いていない所に有るんだ。・・・会話が緊迫していたようだ。


 兄弟妹の3人での会話。

どうやら父は病気らしい、そう長く無い。

十和に遺産を取られるのは嫌だと澪が強く言う。仁美は遺産がどうのと言った事はないし、十和には滝上から相続拒否をするように言わせてある。が返事は無い。仮に手続きが始まって十和が何か言い出しても、遺産の分配が減るだけだ。問題は会社の権利関係に首を突っ込むかどうかだ。おそらく、弁護士が個人資産内で決着をつけると思うが、今、税理士にそう言う考えで、分配可能か調べさせている。それより、十和を除いて、会社をどうするのかお前達考えてるのかと一行。

株式を均等に三分割するのか、今の持株を足して均等にするのか?それには弟も妹も返事は無い。

 鷗州が、議員の荷物の関係は澪と兼伸と一行しか知らない、俺も専務なんだから教えろ。と言うが、一行が鷗州に、お前は何が出来る、帳簿操作か議員荷物の販売ルート開発か?何も出来ないのに、知るだけと言うのはリスクが増えるだけだ。泥に足突っ込んでから言え。と嗜めた。

 澪の2人の子供の商売はうまくいってない。しょっちゅう金カネ言われてるようだ。

 そのタイミングで美紗が、こないだ警部が言ってた決算書だと言って書類をテーブルにポンと置く。(株)富埋貿易の決算内容は公開されている。

「サンキュウな、美紗」

チラリと警部がページを捲る。

「あ〜ひどい赤字だ。会話の通りだわ」

それで澪は社長の一行に少し融通してと言っている。洋一には断られたようだった。


 鷗州と妻(優)との会話。

妻が、父親の世話を一人でやってる、見返りを寄越せ、と言ってる。遺産もその分見込んで多くするよう兄にも言えと迫る。それを寄越さないで十和に遺産やるなんてなったら許さない。絶対、やるなと脅迫しているような口の聞き方をしてる。

「殺害動機、強そだあ」ぶつぶつ一心が呟く。


 一行と洋一の会話。

二重帳簿の話をしている。洋一の時代から引き継いでいるもの。この際、正規のモノにしたいと一行。十五億円くらいで修正出来ると言っている。洋一は帳簿を探せ!と強く言う。国税も気づかないものを何で表に出さないといけないのよ、と怒っている。一行は警察や国税にバレたらあんたの責任だからな、と開き直る。

 経理課の別の人間とか辞めた奴とか、もっと捜索範囲を広げろ。と洋一はあくまで探す気だ。


 説明が終わって、

「証拠にはならないにしても、捜査方針には役立つ、有難う」引き締まった警部の顔にキラリと光るものが見えた。


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