第20話

 丘頭警部と、本庁の佐藤刑事は五稜正司議員の事務所を訪れる。

議員が直接応じてくれて応接室で対座する。

「どういうご用件で?」

「実は、議員が議員会館で職務中、護衛の4名の方が近くのコーヒーショップで待機してるときに、たまたまある事件の被疑者がそこで取引をしたとの情報を得たのです。が、その人物の目撃者もなく、店員も覚えていなくて、それで室内を隈なく捜索すると複数人の髪の毛が出てきたので、被疑者のモノを特定するのにご協力を頂きたいという訳なんです。まだ、逮捕状も出ていないモノですから。それとお話も色々聞けたらと思いまして」

「そういう事ですか、彼らが何かしたと言う事では無いのですね」

「そうです」

「分かりました。今日は5時で帰宅しますので、5時半には彼らの仕事は終わりますから、USガードという会社分かりますか?」

「はい、別件でお邪魔したことがあります」

「じゃ、そこで」

頭を丁寧に下げて辞去した。

「警部は口うまいですね」にやけた顔で佐藤。

「今度は頼むわ。まだ時間あるから一旦帰るか」


 時間になってUSガードを訪問する。受付で身分証を提示して、事情を話すと議員から連絡が来ていたようで、すんなり応接室に案内された。少しして、大男が4人列を作って入ってきた。見るからにボディーガード。

一人ひとり名刺交換をする。勿論貰った名刺の指紋は消さないように受け取る。

澪のガードマンと同一人もいる。

 頭逸秋人(とういつ・あきひと)38歳、札幌出身。

 遠辺陽一(とうのべ・よういち)42歳、東京出身

 霞啓一郎(かすみ・けいいちろう)35歳、名古屋出身

 洋算譚司(ようざん・たんじ)40歳、横浜出身


「あの、富埋澪さんが海外出張の時同行された方ですか?」

「一緒では無いですが、仕事は請け負ってます」

「どっかで見た事ある、と思ったらそうだったんですね」

「色々仕事は受けてますから」

「早速ですが、3月15日の午後議員会館の前のラフォートにいらっしゃいましたよね」

夫々手帳で勤務状況を確認している。

警部も事前に調べてからきているので間違いはないはず。

「はい、あそこは待機場にしてるので」

「それでみなさんには無関係の事件で、被疑者の毛髪を特定するのに、毛髪を一本ずついただきたいので、お願いします」

「はい、議員から聞いてますから」

各自ぴっと髪を抜いて、テーブルに置いたハンカチの上に置く」

警部が、置いた順番に名前を書いてゆく。

「ありがとうございます。そう言えば皆さん、この方ご存知ですか?」

置いたのは着物姿の静の写真。

四人の顔がピクッと引き攣る。

「綺麗な方ですね。誰ですか?」霞がとぼけたふりをして聞いてくる。

「被疑者の一人です。カフェで見かけませんでしたか?洋服姿だったかもしれないんですが?」

「いえ見てません」揃って頭を横にふる。

「こちらはどうですか?」

見せたのは柊十和の写真。

「知りません」再び全員顔を強張らせている。

「そうですか。もう一枚だけ見てください」

テーブルに滝上真二の写真を置く。

「この3人の中に被疑者がいると睨んでるんですが。最も1名は死亡しています。恐らく仲間割れで」

「あれ、どうしました。冷や汗かいてるようですが、見覚えあるんですか?」

「い、いや、無い。もう良いですか」

「あのう、澪さんは近々海外へ行く予定は入ってますか?」

「来月後半に南米に行く予定が有ると、スケジュール表に書いてありましたが、まだ、誰が同伴するか未定です」

「あと、一応電話と住所教えて貰って良いですか?」

警部は内容を手帳にメモする。

「ついでに、3月1日の昼間と14日の夕方以降はどちらにいました?」

「はっ、我々のアリバイですか?」

「いえ、誰かに会ったら必ず聞くんです。両日ともちょっとこのカフェと同じ奴が事件を起こしまして。浅草でなんですが。強制では無いので答えたくないなら、それでも結構ですが?」

一人が手帳を広げる。

「1日は全員休みなのでバラバラです。私、頭逸は実家に親の様子を見に行ってました」

「遠辺は両日休みで家庭サービスで浅草花やしきの遊園地に」

「霞は1日は部屋でぼやっと、14日は洋算と6時から浅草の居酒屋ポンチョで9時頃まで飲んでた。な」洋算は黙って頷いてる。

「洋算さんは1日の日中は?」

「覚えてないから、家にいたと思う」

「頭逸さん14日の夜は?」

「多分、家にいたわ」

「まあ、連絡することはないかと思いますが、何かの時には、よろしくお願いします。それにしても皆さんあちこち怪我してますね?やっぱり仕事関係ですか?」

黙って4人とも頷く。

頭を下げ礼を言って警部は引き上げる。

歩きながら

「佐藤、見たか奴ら、静の顔見てビビってたしょ」

「はあ、何かびっくりしたような」

「奴らが十和ちゃんを誘拐しようとして、この静に叩きのめされたのさ。だから、事前にDNA照合済みだけど、正式にもらわないとな、証拠に出来ないから貰ったまで。これであの4人は誘拐未遂で逮捕はできる」

「殺人の方は?」

「おう、被害者の爪の間から皮膚片がとれて、DNA鑑定してるから、もうすぐこの中の誰かと、一致してくれることを願ってるのよ」

「じゃ、事件一挙に解決じゃ無いですか。丘頭警部、凄い。いつの間に調べたんですか?」

警部は小鼻をうごめかしている。

「ふ〜ん、それは秘密です!ほほほっ」

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