第11話
人事課に戻って社長に会いたいと告げる。
さっきの女性が応対してくれる。さっきは気付かなかったが、ショートカットの女優と紛うような感じの女性で、物腰は柔らかく決して悪印象は与えない自戒が、引いた顎や背筋などの美しさに表れている。内線の受話器を置いて、こちらですと廊下の右端の2歩先を、こちらのペースに合わせて歩いてくれる。
気持ち良く社長室内に案内される。女性に一礼をして、社長に身分証を見せて、勧められたソフアに対座する。
「早速ですが、滝上さんの事で・・」と話しを始めたところで、社長が喋り出す。気が短いのかと警部は息を抜く。
「滝上くんはまだ入社3年ですが、安心して仕事を任せられる人材でした。残念でした。社内でも色々聞いたんだが、トラブっていた形跡はありませんでした。だから、個人的なトラブルが原因で殺害されたのではないでしょうか」
一気に最後まで喋り続け肩で息をしている。社内にゴタゴタを持ち込まれるのを警戒しているとしか見えない。
「ありがとうございます。そうすると、彼を怒鳴りつけるようなことは無かったと言う事ですか?」
「そりゃあなた、完璧な人間なんかいないから、間違いを正す意味で叱ることは上司として当然ありました。だが、彼の優秀なところは、同じ間違いを繰り返さないところなんですよ。それは課長、私の長男なんですが、彼も言ってます。聞いてみたらわかる」
「なるほど、人間関係はどうです?ライバルとか社内恋愛とか?」
「彼には、ライバルという存在はいなかった。外に恋人がいると聞いてる。今現在どうなっていたのかは分からないが」
「その彼女が鷗州さんの子供で十和さんと言うんですが、知りませんか?」
「いや、それは初耳だ。そうですかあ、鷗州の子供が彼の恋人だったんだ。鷗州、ほんと女みる目ないからなあ」
「はっ、それは優さんの事ですか?」
「あっ、いや関係ない忘れてくれ。失言だ」
「はあ、で、十和さんは認知こそされていませんが、鷗州さんの子供です。相続問題はどう考えておられますか?」
「鷗州から、相手は相続を拒否した。と聞いてるよ。万一、相手が訴訟でも起こしたら、その時考えますよ。血縁ですから」
社長は何かを言おうとして、一旦目を落として一考し、警部に目を合わせる。
「身内にも内密にできますか?」
勿論と頷く。
「実は、会長はそう長くない。個人資産はその十和さんだけの問題。それより会社をどうするのか。が、大きな問題なんです。勿論、私が社長だからリーダーシップは取るが、持株をどうするのか、権限をどう分配するのか、弟たちにも考えが有ると思うんです。社内分裂なんてのは絶対に避けなければならんので。それが、一番大きな頭痛の種です。お分かり頂けますかな?」
「何となく、だから相続問題は大した事ではないと言う事ですね」
「その通りです」
「最後に、3月14日の夜8時半から9時半の間はどちらに?」
「アリバイですか・・ちょっと待って、9時に帰宅と書いてあるから、その前は会社にいて家に着いたのは9時半くらいになるかな」
「会社ではお一人でした?」
「そうだが、建物の管理室に聞いたら分かるんじゃないか?」
「有難うございました。この後専務さんにもお会いしたいのですが?」
社長は机の電話で暫し話をしている。
先ほどの人事課の女性が来て、こちらへと案内してくれる。
2人は社長に頭を下げ辞去する。
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