第9話

 丘頭警部が突然岡引探偵事務所に姿を現す。いつもと全く雰囲気が違って、重い悲しみに包まれている。

ラーメン屋の十和が警部に肩を抱かれながら階段を上がってきた。目が真っ赤。一心は何も知らずに声をかける。

「十和ちゃん、どうした?」

「ちょっと黙って」機嫌悪そうに警部。

「昨夜、恋人が殺された」

全員、ぴたりと動きを止めた。言葉が出ない。

「悪いけど、ここ貸して。色々聴かないとダメなのさ」警部が頭を下げる。

皆んな、離れた場所に移動して、無言のままじっと見つめている。

警部が現場の状況や被害者の様子、部屋の様子などを細かく話す。

その上で

「何か、知らない?彼から言われたり、預かったりしたものとか無い?」

「最近、難しい顔してた。どうしたのって訊いても何でも無いってしか言わなかった」苦しそうな十和。泣く。美紗がハンカチを渡す。

しばし間があって

「おじさん」と一心を見つめて言う。

一心が目を合わせる。

「おじさん!犯人捕まえて!お金用意するから!お願い!おじさん!」声を詰まらせながら悲痛な叫び。悔し涙が混じる。

「勿論だ、頼まれなくっても、十和ちゃんの彼氏を殺すなんてとんでもないやつだ!十和ちゃん絶対おじさんとっ捕まえてやる。約束する!」周りも皆頷いている。

静や美紗は既に眼差しが怒りの色に変わっている。

それから十和がボソボソっと呟く。

「私の部屋に下着泥棒入って、誘拐されそうになって、今度は真二が殺され、部屋まで荒らされるなんて、何で?何で?何か悪いことしたのかな?」

俯いて借りたハンカチで涙を拭う。

「十和ちゃん、彼に会いに行くかい?3、4時間したら会えると思うけど。警察病院ね」

「はい、会いたい」

「じゃ、一心頼むわ。連れて行って。私、捜査本部に戻らないといけないから」

そして、一心は警部に、一連の事件の裏に何かあると目顔で知らせる。


 暫くして、ドタドタと階段を誰かが上がってくる。一心に想像は付いていた。

「十和!大丈夫か?」予想通り大将の田中さんだ。

「はい」細く弱い十和の声。

「一心!犯人探し頼むぞ!」封筒を差し出す。さっと、一心が受け取る。

「大将、これは預かる。今ここでゴタゴタ言いたく無い」

「十和ちゃん、彼の親兄弟は?」

「いません。大学生の時事故で亡くしました。一人っ子でした。付き合いのある親戚もなくて。お葬式私が出そうと思ってます」

「そうか、十和ちゃん大変だな。じゃ、これ」大将から受けた調査費を十和に渡す。

「そうだそれが良い」大将も頷く。

「十和ちゃん彼の出身大学は何処か知ってる?」

「はい、東京の北道大学の経営管理科です」

「ありがとう。数馬!そこ行って友人関係洗い出せ。一助と美紗は富埋貿易行って、友達関係調べて、話聞いてこい」

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