第5話
阿寒湖名物マリモ羊羹をお土産に事務所に戻ってきた一心。皆んなを集めて叔母さんと仁美の友人の話を伝える。
そして、一心は羊羹を啄みながら富埋家と(株)富埋貿易についての調査開始を宣言し、家族全員を記載した紙を配る。
富埋の家族は、
家長は洋一(よういち)75歳会長で妻は死去、子供は3人。
長男は一行(いちゆき)53歳社長、妻聡子(そうこ)53歳、長男兼信(兼信)31歳経理課長、次男蔵仁(くらひと)26歳営業課、長女麗(れい)29歳キャビンアテンダント。
次男は鷗州(おうしゅう)51歳専務、妻優47歳、長女鈴香(すずか)21大学生、次女綾香(りょうか)19歳大学生。
長女は澪(みお)49歳取締役、夫貴徳55歳営業部長、長男弾(はずむ)27歳自営業、長女紫雀(しじゃく)24歳ブティック経営。
「美紗はネット系で、富埋貿易と家族の情報を、数馬、一助は近所から情報収集、俺と静は、洋一に会う」
「何で2人?」美紗が眉をひそめる。
「ボディーガード」苦笑いの一心。
「そない、怖いとこどすか?かなんわあ」
一同しらっとする。
2時間後、2人は富埋洋一の邸宅の50畳はあるだろう応接間で、洋一と対座している。10人は座れると思える応接セット。中央に置かれたアンティークなテーブルの気品の高さを、四方に置かれた高級感あるソフアが一層醸し出す。壁際のサイドボードは室内の調和を重視し、中には洋酒ボトルや装飾皿が並べられている。壁にディスプレイされた大きな油絵には、目を奪われるほど美しい風景が描かれている。
カーペットではない絨毯が複雑な模様を呈し、ふかふかで履いていたスリッパを脱いで足裏で心地よい感触を愉しめる。
名刺を差し出し自己紹介する。静はテーブルの裏にシール型盗聴器を仕掛ける。
「お孫さんにあたる、柊十和さんについて、ご存じの範囲で教えていただきたいのですが?」
「そんな孫はいない。」応じる洋一は大柄でどっしりとした体型と、深く刻み込まれた皺が、世故にたけ何事にも動じない覚悟が感じられる。
「そんな筈は無いと思うのですが、柊仁美さんはご存知ですよね?」
「その女は知ってる。次男坊の昔の女で、子供が出来て認知すれとか言って、金をせびってきた女だ。俺が出てって金やって解決した」
「十和さんは、その仁美さんの娘さんです。別れた時に、お腹にいた子供です」
「金やって産むなと言った。勝手に産んだのなら当家とは関係ない話だ」
「そうですか、仁美さんが亡くなった経緯はご存じですか?」
「知らん」
「鷗州さんの奥さんが関わっていたと聞いたんですが?」
「そんな話、聞いたことはない」
「亡くなった理由もですか?」
「事故としか聞いておらん」
そこで一心は釧路の叔母さんと友達の鏑恵子さんから聞いた話を伝える。
話を聞いた後で洋一はたばこの煙を一心に向けて吐き出す。
「妊婦を送る際に手際の悪さがあったとしても、事故とは関係ないだろう」
「会長さんはボディーガードとかつけているんですか?」
「そんなもんはおらん。運転手は交代で2人おるが、それがどうした?」
「実は、柊十和さんがつい先日、攫われそうになりまして、僕と妻がたまたま通りがかって、助けることができたんですが。犯人は黒い背広姿で、映画なんかで見るボディガードみたいな感じだったので、そういう人を雇えそうな人をあちこちで探しては聞き回ってるんです」
「一般の会社でボディーガードなんかつけるやつはおらんだろう。政府高官とか、後は黒い組織とかじゃないか?はっはっ」
「そうですか、つまらない質問を、失礼しました。ところで、次男ご夫妻と同居していると聞きましたが、優さんはご在宅ですか?」
「この部屋の左が俺の家、右が鷗州の家だ、食事は一緒だがな。右のドアのインターホンを鳴らしてみな。いれば話ができるかも知れん。じゃ、俺はもういいな?」
「はい、ありがとうございました」
「探偵ごときに話す必要はなかったが、後ろめたいことが何もないから会ってやったんだ。感謝しな」そう捨て台詞を吐いて自室へ消えた。
「あないないいようされて、ほんまけったくそわるいわ」珍しく静が怒っている。
優の部屋のインターホンを鳴らす。やや間があって、返事があり、要件を伝えるとドアロックの外れる音がした。
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