第2話
岡引探偵事務所に柊十和(ひいらぎ・とわ)と丘頭警部と岡引一心、静、数馬、美紗、一助が揃う。
警部が名前、住所、電話、年齢、出身などを聞いた後、被害届に十和のサインを求める。震える手を押さえながら書く十和。
「十和さん、誘拐される心当たりとか、最近変わったこととか、気になることとか、何かあった?」優しい口調の警部。
「全然、わからない。だから怖い」と震える声で訴える。警部が文字を書く十和の指先に気付く。
「あらっ、十和さん指見せて」
顔を警部の方へ向けて、両手の指を広げて差し出す。
「男らの顔とか手とか引っ掻いた?」
「かもしれません。夢中で逃げようと暴れたから」
「美紗!ピンセットか爪切りか、先の尖ったものない?」
一旦奥の部屋へ引っ込んだ美紗がピンセットを警部に渡す。
「ちょっと失礼」十和の爪の間の皮膚片らしきものを穿り出して、自分のハンカチに挟む。ほかの3本の指からも取り出した。
「これ犯人の皮膚なら証拠になるからね」そう言って同席していた部下に渡す。
一心は思い出したように自分のスマホを高く持ち上げ
「美紗!犯行の一部始終を録画したから、コピーを警部に、それと男の顔を印刷して持ってきて」と指示する。頷いた美紗が数分してテーブルに男の顔写真4枚と、乗り捨てたワンボックスと、逃げるワンボックスの写真を置く。
ナンバープレートの番号が読める。警部が写真を見つめる。
「悪そうな顔」と笑いを誘う。
「十和さん、この顔見たことある?」
十和は首を横に振る。
美紗は警部にメディアを1枚、
「コピーだから」と言って渡す。
静がココアを十和に、飲みなさい、と優しい声で差し出す。こっくり頷いて手にし、すぐに啜り、ふう、と一息つく。
あとのメンバーのはお茶。
突然、妙な音楽が事務所内に響く。
警部が慌ただしくポケットからスマホを取り出す。
「なに?」といい、ふん、ふん、と何度か頷いて切る。
「犯行に使われた車と逃走車、両方とも盗難車だったとさ!腹たつ。で、車内には何も残されていなかったようだ」と付け加える。
そして警部はじっと写真を見つめる。
「やり口からみて、プロなんじゃないかな?」
「俺もそう思う」と一心。
「せやけど、随分と、弱いお方はんどしたえ」静の言葉に、皆んなが口を揃えたように
「それは、お前が強すぎるんだ!」
思わず、十和も笑う。
静は納得いかない顔。
「さよか?」と首を捻る。
タンタンタンと階段を駆け上がってくる足音がする。
「十和!大丈夫かあ?」息を切らせて、大きな声で第一声。ラーメン屋の大将田中さんだ。
「はい、皆さんに助けて貰いました」
「一心さん!なんか分からんけど、十和を攫おうなんて、とんでもない。また、襲われるかも知らん。だから、急いで捕まえてくれ。頼む。依頼料」といって封筒を一心に差し出す。
「大将!私のためにそんな」
「バカ言え、十和は釧路の婆ちゃんたちから預かった、大事な娘だ。俺は自分の娘だと思ってこれまできたんだ。犯人を八つ裂きにしても飽き足らん。頼むぜ一心」
「おう、当たり前だ」一も二もなく引き受ける。
「警察も当然に動いているからね。今夜からは夜中張ってるから、安心して」
「十和ちゃんは、釧路に叔母さんいるの?」
「ええ、祖父母と一緒に。」
「ご両親は?」
「父は知りません。名前もしりません。母は私がお腹にいるときに、事故で亡くなったそうです。」
「東京に知り合いは?」
「親戚は釧路以外にはいません。東京に、彼が・・」恥ずかしそうに話す声が、だんだん声が小さくなって、青白かった顔に仄かな赤みが差してくる。
「ストーカーの心当たりも無いんだね」警部が念押し。頷く十和。
「十和ちゃん、依頼を受けたので、先ず俺が釧路の叔母さんやおばあちゃんに会ってくるわ。今の所その辺にしか糸口ないから」
「ところで、大将!店は?」と数馬。
「こんな時にやってらんないから、閉めた」
「あら〜後で食いに行こうと思ったのに」と残念がる数馬に、
「いいよ、後でみんなの分作って来るか?」
皆んなで、何度も首肯する。
「何時頃いい?」
「もう、話し大分して、静も随分運動して腹減ってるだろうから、今でも良いよ。な」
大将が十和を手招きして連れて店に戻る。
「十和ちゃんと大将も一緒に食べよう!ご馳走する!」背中に叫ぶ一心。
遥か遠くで「お〜」と聞こえた。
「警部、奴らなんで真っ昼間に誘拐なんて?」
「そうだね、夜なら顔を見られることも少ないし、人通りも少ない・・・何でだろう?」
皆んなで頭を捻るが思い当たらない。
「やっぱり、素人はんとちゃいますか?」と静。一心は唸る。
暫く間があり、ガタガタ足音が近づく。
「お待たせ〜」ニコニコ顔の十和。
テーブルにラーメンを並べる。一心がお金を払う。
「じゃ、犯人逮捕の景気付けだ!」と一心が音頭をとる。一斉に
「いっただっきま〜す」
1人だけ
「ほな、よばれまひょか」
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