東堂兄弟の５分で解決録１〜文化祭に兄が来た！〜

事件発生！

　＊

　いいかげん疲れたなぁ。

　どこ行っても猛が追ってくる。

「あれ？　こっちに弟がいるって聞いたのに」

「弟さん、見ませんよ？」

　廊下の彼方から話し声。

　僕は家庭科室にひそんでいた。ここは手芸部の展示室だ。人形や服やいろんな手作り品が置かれてる。

　ホニャちゃんマスコットの売り子は校内を歩きまわってて、家庭科室には誰もいない。

（はぁ……逃げきれるかな？　猛。しつこいぞ）

　ため息ついてると、どっかから、ホニャーンと変な声が聞こえた、ような気がした。

　なんだ？　今の……？

　目の前にはでっかいホニャちゃんのぬいぐるみ。

　まさか、こいつが？

　いくら好きだからって、ぬいぐるみが鳴いたよ、なんてファンタジーを信じる年じゃない。どっちかっていうと、僕はホラーっぽい展開を想像した。

　ちょっと……怖いかも。

　もう出よう。

　猛に見つかる前に、もっと遠くに行かないと。

　そっと家庭科室のドアをあける。廊下に人影はなし。

　僕は階段へと急いだ。

　まがりかどで女の子にぶつかる。

　あれ？　さっきの他校の子。ブレザー黒いから目立つよね。うちは紺。

　僕らは廊下に倒れこんだ。

「大丈夫？」

　声をかけると、女の子はキッとにらんで走っていった。

　ええっ……なんでぇ？

　ふりかえると、むこうからも女の子が歩いてくる。そのうしろに見えるのは——猛だ！　とりまき、ひきつれてる。

　僕は急いで階段をかけおりた。

　そのときだ。

　ガチャンとスゴイ音がした。

　ガラスでも割れたか？

　わあわあと悲鳴が聞こえる。

「わッ！　誰がやったん？」

「おれ、見た。さっき、ここからメイドがとびだしてった」

「メイド？　あれやない？」

　あれよあれよってうちに、僕は家庭科室の前にひっぱっていかれる。

　教室に破片が散乱してた。あれはさっきまで健在だった展示品の人形。

　わあ……ヒドイ。粉々だ。作るの大変だったろうに。

　泣いてる女子生徒は人形の製作者だろう。

「えッ！　ちょっと待ってよ。まさか、僕が壊したことになってるの？」

　みんなの目がそうだと告げてる。

　これは……困ったぞ。