第34話 強者同士でも
アヤとテイラーの戦いは力と力のぶつかり合いから始まった。体格的にはテイラーの圧倒だが、実際の押し合いでは拮抗している。
「ほぉ、思ってたよりやるじゃねぇか」
アヤと何度か剣を交えたテイラーは嬉しそうだ。きっと久しぶりの強敵なのだろう。お互いにどんどん強く、早く剣を振るいだんだんと目に追えなくなっている人も出てきていた。
どこまでもこの調子が続くかとも思われたが当然限界は来る。先に根をあげたのはテイラーの方だった。
これ以上はできないと判断したのだろう。アヤと直接ぶつかるのを避け、じっと反撃の時を待っているように見えた。
それを好機と見たアヤはひたすらに攻め続ける。向こうが反撃を狙っているのは薄々感づいてはいるのでその隙すら与えない程に苛烈な攻めだ。
普通の人ではとっくに立っていられないような攻めにもテイラーはじっと耐える。いつか来る反撃の時を求めて。
しかし、現実は非常であった。時折俺の目から見れば隙に見えるものも何回かあったがそれは傍から見ているから気づくのであって実際に受けている側では気づくことは至難の業であろう。
やがて攻撃を受けきれなくなったテイラーは徐々に有効打を受け出す。なんとか耐えてはいるが今にも倒れそうだ。最後まで闘志を絶やすことはなかったがとうとう限界がきてズシンと倒れる。大男が倒れたとだけあって周囲が揺れたように感じた。
直後、彼を相手にして圧倒したのかという驚きでざわついていた。彼もパーティー内ではとびぬけた実力があったことがうかがえる。もちろん2回戦の戦いでそれは薄々感じてはいたが。
「うぅ・・・強いな、戦う前に自信たっぷりに発言したことが恥ずかしいな」
「貴方は強かったわ。うちのパーティーのリーダーとならいい勝負ができるんじゃない?」
「褒められている気はしねぇな。まぁそう言うなら決勝はやらなくてもお前が勝つだろうな」
「それはどうかしら。今なら準決勝の疲労の分で私が勝つけどお互いに万全なら分からないわ」
どういうことだ?とテイラーは不思議に思ったが彼女がそういうならそうなのだろう。それが本当かどうか見てみたくなった。
「決勝は明日だ。本気のお前達の戦いが見てみたくなった。いいな?」
急な予定の変更にざわついた。だがそれに異を唱える者はいなかった。ヨウヘイも戦いを見てみたいと思っていたからだ。他のものはそもそも言い返せるほどの実力はなかった。
俺とアヤは確かにベストの状態で戦えることはお互いにとって願ったり叶ったりなので言うまでもない。
今日の戦いは終わり、各自お互いを称え合っていた。どの試合も各自の持ち味を出せていてお互いに得るものだあったからだ。互いの意地をかけての戦いだったがお互いが全力でやったからこそ得るものがあったように思える。
その勢いのまままだ決勝が残っているというのにその日の夜は少ない酒を飲みあってちょっとした宴のように騒いだ。
宴の場でもお互いに親睦を深め、色々と情報を交換し合った。俺達のパーティーはまだ結成して間もないので出せる情報が少なかったので少々申し訳なかったが代わりに俺の陽炎時代のエピソードで我慢してもらった。
「おめぇ陽炎のメンバーだったのか。その若さでその強さってのも納得だな。にしてもなんでそんなパーティーを抜けたんだ?」
俺はそこに至った経緯をテイラーとヨウヘイに伝えた。別に隠すことではないがあまり大っぴらに言うのも引けるのでパーティーのリーダーにだけ教えることにした。
「・・・そういうことだったのですか。彼女の強さを見れば納得ですね。私でも彼女を扱うのは難しいと思います」
「やっぱりお前が勝つ姿は想像できねぇ。俺に何もさせずに勝つような奴にどうやって向かっていくんだ?」
「それは・・・実際に見てのお楽しみってことで」
「なんだよ、もったいぶるじゃねぇか」
自信があるかと言えば正直無い。でも気持ちで負けてては勝てない。やれることをやるだけさ。
その日は遅くまで皆が皆騒いでいた。お酒も少ないというのによくここまでできるものである。話題の中心は明日の決勝どちらが勝つかという内容だった。
普通に考えればアヤが勝つとしか考えれない。しかし、テイラーとヨウヘイが俺が勝つと言ったため議論が発生している。おそらくだが彼らもアヤの方が強いとは思っているだろう。
俺の言葉を信じてか、それともアヤが負けるところを見たいことから来る願望か、それは分からないが俺に賭けてくれたことは確かである。
(さて、どうしようか。益々引けなくなったがこれでこそだ。皆を、アヤを驚かせる作戦を考えないとな」
夜も更けてきている中、ひたすら明日の戦いの作戦を考える。幾つものパターンを考えるがどれも上手くはいかない。想定の中でもアヤは手強いな。そう思いながらうとうととしだし、いつの間にか寝てしまっていた。
次の日、皆が期待していた戦いが行われることはなかった。ゾツェの街への攻撃指令が出たからである。
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