第33話 強者同士

準決勝第一試合、俺とヨウヘイの戦いは今始まろうとしていた。いつものどこか掴みどころのない彼はいなく、ただ俺の方を見ていた。


試合開始の合図がされたと同時にヨウヘイから動きだした。一瞬身構えるが接近してきたわけではなく、むしろ逆俺から距離を取りだした。


どういう狙いなのだろうか。今までの試合ではこのような動きはしてこなかった。きっと同格以上の相手と戦うために隠していたのだろう。ここからはアドリブで戦うしかない。


距離を詰めるべきなのだろうか、それとも向こうから仕掛けてもらうのを待つか。戦ったことの無いタイプとの戦闘に方針が決まらない。ヨウヘイはそんな俺の様子を見て楽しんでいるかのように見えた。


(仕方ない、誘いに乗ってやるか)


ヨウヘイとの我慢比べに負けた俺はヨウヘイとの距離を詰めにかかる。それに合わせてヨウヘイは俺との距離を一定に保つように動くため、中々距離を詰めれない。そこで俺はさらに速度を上げ、ヨウヘイが俺の方を見ながらでは移動できない速さで距離を詰める選択をした。


これで何か動きがあるだろうと思った直後、急にヨウヘイは俺に向かって足を進め始めた。急な方向転換、相当足腰を鍛えているのだろう。予想よりも早い対応に驚き、俺は思わず動きが鈍る。


しかし、お互いに距離を詰め出したため、一瞬で距離が詰まっていき、剣と剣が交錯する。


ぶつかった直後は互角だったがそれは一瞬だけ、勢いに勝るヨウヘイに徐々に押され始め、俺は後手後手を踏んでいく。


(アヤとやりあった時はこんな感じで主導権を握られてそこから返せずに終わってしまった、何かここから返せないか・・・)


必死に打破しようと模索するが思い付きの攻撃が通るような相手ではない、色々と手は尽くしてみたがこちらから決定打は出せず、体力だけ消耗していく。


だが、ヨウヘイも俺に対していまいち決めきれない。技量の差はほとんどないため、明らかに有利なのは向こうのはずなのに・・・


(もしかして、決勝に備えて温存したまま勝とうとしているのか?今有利な状況だから無理に手の内を晒す必要は無い、そう思ってても不思議じゃないな。それに賭けてみるしかないか)


俺は最後のあがきと言わんばかりに全ての体力を使い切る勢いで苦しいながらも反撃を開始した。最後に一撃だけ打てる体力を残しているのがばれない様にだが。


俺の必死の攻撃を待ってましたと言わんばかりに攻撃を受け続けるヨウヘイ、流石にこの程度の攻撃では通らないか。


最初は勢いのあった俺の攻撃だが、徐々に尻すぼみになっていく。そして最後の一撃と思われる攻撃を受けきったヨウヘイは勝ちを確信したようだ。これまでの繊細な攻撃とは違い、振りかぶって大ぶりのの一撃で決めに来たようだ。


それを待っていた!ギリギリまで気づかれないよう、闘志を押し殺し、逆転の一瞬をただ待った。


ここしかないという瞬間を見出し、ヨウヘイに対し、渾身の一撃をぶつける。完全に不意を突かれた形になったヨウヘイは俺の攻撃を受けることができずに直撃を許した。


ばたりと倒れるヨウヘイ、勝った。そう思ったが俺も限界のようだ。ヨウヘイに少し遅れて俺も倒れた。


「勝者、コウキ」


お互いに倒れているから勝者なんていないだろと思う人もいるかもしれない。だが確かに俺は勝った、強がりかもしれないがこういう時くらい意地を張らせてくれ。


ヨウヘイの敗北にざわつく、道草のメンバー。彼が負けるなんてパーティーの誰も思っていなかったのだろう。それほどまでに彼は強かった。確かに俺は勝ったが試合の内容としては完全に負けていたのだ。


疲労と、痛みで起きれない両者はパーティーメンバーに支えられなんとか休息できる場所へ移動する。まったく、模擬戦だというのに本気を出しすぎである。これも冒険者らしいといえばそうなのだが。


休憩所でヨウヘイとお互いを称え合う。どちらも光る部分があり、非常にギリギリの戦いだった。お互いに反省するところはある。


「今回は上手くしてやられたけど次はこうはいかないよ」


「その時までには俺ももっと強くなってます。次も負けません」


心なしか戦う前よりも仲が良くなったような気もする。実際に剣を交えてみないと分からないこともあるのだ。そしてアヤとテイラーの戦いが始まるまでの間、ヨウヘイと先程の戦闘について語り合ったのだった。


2人が倒れたため、アヤとテイラーの試合開始は遅れに遅れた。とは言っても今日は何も予定はないので問題はないのだが。


さて、話を戻そう。アヤとテイラーの戦いだが、俺達とは違ってお互いに攻撃的な2人だ。戦いは一瞬で決まることもある。そう思いながら俺はアヤとの再戦を密かに願いつつ、試合を観戦した、


「さっきの試合は俺も思わず手に汗握っちまった。俺達もあれに負けないような戦いをしてぇな」


「そうね、でも勝つのは私。覚悟しなさい」


お互いに言いたいことを言い合ったところでいよいよアヤ対テイラーの戦いが始まった。

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