第32話 冒険者の性
ミサキを除く15人で誰が一番強いのか、それを決める戦いが始まった。くじで対戦カードを決めた結果、俺とアヤは決勝で当たることになった。正直途中で当たってたら例え勝っても次で勝てる自信はなかったので良かった。
「さて、対戦の組み合わせも決まったことだから早速始めよう。ま、俺は1回戦休みなんでゆっくり見物させてもらうよ」
「まったく・・・よりによって貴方が不戦勝とは、体力的にも情報的にもちょっとまずいかもですね」
確かにそうだ。豪傑軍団のリーダであるテイラーはおそらくパーティー内最強なのだろう。その彼が1回戦戦わずして駒を進めるのはずるいとすら感じてしまう。だが、くじは公平なので仕方ないがな。
「最初は俺か、まぁ見ていてくれ。お前らに当たるまで負ける気はないからよ」
「言うじゃねぇか。言っとくが俺以外もみんな強いからな。お前なんてあっという間かもしれねぇぞ」
「ご忠告どうも」
俺の対戦相手は豪傑軍団のメンバーだった。名前はえーっと、ジムだったか?
お互いに戦いの準備が完了したことを確認したミサキが戦闘開始を告げる。戦闘に参加しない彼女が審判役をやることになったのだ・・・本人は嫌がっていたが。
勢いよくジムはこちらに向かって来る。なるほど、いい踏み込みだ。振り下ろされる剣を受け止めたと思ったが感触が無い?おかしいと思うより早く身体が危険を察知し、距離を取っていた。
直後、さっきまで自分がいた場所に右からの一撃が空を切っていた。危ない、あのまま受け身に入ろうとしていれば直撃は避けられなかっただろう。
「へぇ、今の避けるんだ。初見で避けたのはテイラーさん以来だ。面白くなってきた」
それからしばらくはジムの手番が続いた。ひたすら攻撃を受け続けているため攻撃の暇がない。いや、厳密には攻撃しなかったという方が正しいか。
「どうした、いつまでも受け続けれると思うなよ」
俺はあえて攻撃しなかった。ジムはまだ何かを隠しているから余裕そうに見えたからだ。それを引き出させたうえで勝つ。途中からそう決めていたのだ。
(でもこのままじゃそれを出してはくれないよな、こちらから動かないとだめか)
決心して一転、ジムへの反撃を開始する。そして繰り出す技は先程ジムにやられた技と同じものを見よう見まねでやってみた。中々不格好だが見てくれだけはそれなりだ。攻撃は受けられたものの驚いてはくれた。
それと同時に馬鹿にしてるのかと言わんばかりに睨みつけてきた。そうだ、もっと怒ってくれ。そして隠し持っている物を見せてくれ。
再びジムの攻撃が再開される。今度は俺もただ受けているだけでなく隙を見ながら適度に反撃する。この時点でジム側に勝機はかなり薄いといった感じだ。これを打破するには奥の手を使わないといけない。
「ちょこまかと・・・これで終わらせる」
再び俺に対して距離を詰めて来る。だが剣を構えたままだ。狙いの分からない俺は困惑するが相手が動くまでは辛抱だ。だが、どこまで距離を詰めても動きはない。
(もしかしてこのまま突き出す気か?)
そう思って距離を取ろうと重心が後ろに傾いた瞬間を逃さずに脚へ薙ぎ払いをかけてきた。慌てて攻撃を受けるが体勢が悪い。バランスを崩し、隙を作ることになってしまった。
その隙を逃さずに攻め立ててきたがアヤで鍛えられた反射神経の前では一歩及ばずにギリギリ体勢を戻し、受けきる。そしてそのまま技の応酬になり、最後は手数の差で押し切った。
「・・・ふぅ、強いな。また手合わせする機会があればお願いしたいくらいだよ」
「へっ、よく言うぜ。今度は負けねぇ」
お互いに称え合い、勝負は決した。そして2人のリーダーのいる元へと戻っていった。
「やるじゃねぇか。ジムの技を全てださせたうえで完勝したんだ。しかもお前はまだ底をみせてねぇ、面白くなってきた」
「ふむ、アヤさんもすごかったですが個人的には貴方の方が当たりたくないですね。そのときは容赦しませんが」
順調に1回戦の各試合は行われていった。大きな波乱はなく、大体実力通りのメンバーが残ったという感じだ。もちろんアヤ、ヨウヘイも残っている。
そのまま2回戦も終わり、残っているメンバーは俺、アヤ、ヨウヘイ、テイラーの4人が残った。2回戦はかなり白熱した試合が多かったがやはりこの4人は実力的にも抜けていた。
「まぁこうなることはある程度予想はできていたな。ここからが大変そうだ」
「次は貴方ですか・・・やるからには負けたくないというものです。勝たせてもらいますよ」
俺の対戦相手はヨウヘイだ。1回戦、2回戦と戦いを見させてもらったが俺と同様中々底を見させてはくれないくらいには実力者といった感じではあった。やっぱりここからはレベルが違うよな。
そしてアヤの対戦相手はテイラー、2回戦しか戦いは見ていないが恵まれた体格を活かし、相手の攻撃を物ともせずに受けて最後は一撃で仕留めていた。スピードはそこまでないようには見えたが果たして・・・というのが俺の感想だ。
2回戦から少々の休憩後、いよいよ準決勝が開始される。
何かをかけているわけではない、強いて言うならばプライドをかけているのか。だが、それが大事なのだ。戦いに身を置く冒険者とはそういうものだ。
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