第31話 束の間の休息
「・・・ということがあったので私は金庫の中にあった書類を半分渡されたんでそれを持ち帰ってきたわけです。後は皆さんの知っての通りです」
「・・・なるほどな、これで今回の暴動の原因とどうしてそれを示す書類がなかったのか。両方の謎が解けたぜ」
「でも肝心の書類が街の中とはねぇ、簡単に解決とはいかなさそうだね」
「そうだな、また街の中に入るのは難しいだろうから困ったな」
この暴動の真実を知っているのは俺達だけだて・・・尤もその男が言っていたことが本当でない可能性もある。すべての話は法律の書かれた書類がある前提でこの話は進められているからだ。
(信じてもよさそうなのはそうなんだけど向こうは俺達を信じなかったから今の状況になってるんだよな。結果論だけど)
「暫くは街へは攻め込みそうもないって言ってたな。難しいがもう一回行くしかないのか?」
「やめておいた方がいいよ。ただでさえ混乱している状況で街の方へ向かったとなれば裏切りと認定されて前と違ってかなりしつこく調べられるだろう。そうなったら俺達は君達に全ての責任を押し付けることになりそうだ」
ひどいことを言っているようだが事前に言ってくれるだけ優しいのだ。確かに昨日とは状況が違う。下手な行動はすぐに咎められるだろう。
「そんなに考えすぎないで、時間もまだあるしそれに向こうの立場になって考えてみようよ。こんな書類がばら撒かれたら本当にヤバい物がないか血眼になって探すはずです。気が気でないのは向こうの方ですよ」
「そ、そうだな。向こうから何かしらの動きはあるはずだ。それを見てこちらも動きを変えればいいな。向こうには誰がこれをばら撒いたか分からないからな。この状況をこちらから崩すことはないか」
そして街に攻め入る気配のないまま数日が経過した。何度も持ち物を調べられたりしたが、早々見つかる場所に持っているわけではないので向こうは無駄足に終わったようだ。このまま攻めることをやめてくれればいいんだけど・・・
「これだけの冒険者を雇ったままにするのは向こうとしても相当コストがかかるだろうからいい加減動きがあってもいいんだけど・・・やっぱり誰か裏切り者がいて好き勝手されているという事実が許せないのかな?」
領主の立場なら一般人に好きなようにされているということは受け入れがたいことと感じるだろう。まして今まで好き勝手していた立場なら尚更である。
「そうだと思います。でも資金も無限じゃないからいつまでもこのままってこともないはずなんですけどね・・・よっぽど頭にきていると考えるほうが自然です」
「以前あいつの依頼を受けたことがあるけどよ、その時の態度が悪かったからもし焦ってるんだったらスカッとするぜ」
(そんなに印象に残るなんてよっぽどだったんだな・・・)
「ま、とりあえず今日も動きはなさそうだな。正直待機しているだけってのも暇だな。どうだ?いざってときに実力が出せなくても困るしお互いのパーティーでお手合わせといかないか?」
突然の提案に少し驚くが丁度いい提案でもある。俺は2人に確認するまでもなく2つ返事でOKを出した。あとでミサキには何か言われるかもしれないがどうせ彼女は戦わないんだ。好きにさせてくれ。
「私達も暇を持て余していたところなので構いませんよ。お互いに傷つくことの無いようには注意しましょう」
そして3つのパーティーメンバー同士での模擬戦が始まった。後で知ったことだが同じようなことは各地で行われていたようだ。
そのため、戦いが起きていないというのにどこも賑やかな雰囲気だった。とても戦いが始まりそうな雰囲気ではない。
・・・さて俺達の方に話を戻そう。ミサキは戦いに参加しないとして俺とミサキは模擬戦に参加することになった。
「もう、勝手に決めるなんてらしくないわね」
「まぁまぁ、いいじゃないか。どうせ君は出ないんでしょ?」
「それはそうだけど・・・怪我しないように注意しなさいよ。他のパーティーの人達も優しい人たちだったから大丈夫だと思うけど事故はあるからね」
「ははは、心配しなくてもいいよ」
「コウキ、今度も倒してやるから覚悟しなさい」
「何度も負けてやるほど俺は優しくはないぞ」
「ふん、その強がりがいつまで続くのか楽しみね」
お互いに負けず嫌いなのだ。お互いがぶつかるまで残っていられるかは分からない。でもアヤ(コウキ)だけには負けたくない。戦いの時までお互いに闘志を燃やすのだった。
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冒険者が各々腕試しの戦いを始めている中ゾチェの街を治める領主は冒険者達が持っているはずのない書類を持っているという報告を受けて焦っていた。最初はただの悪戯と思っていたが書類の1枚を見て青ざめた。何せ中身を決して取り出せないはずの金庫に入れてあるものが出回っているからだ。
「この書類の回収と広めた奴を探してこい。できるだけ早くだ」
部下達に命じたが仮に見つけれたとして金庫を開けれるような奴を相手にできるのか?不安で仕方なかった。
(しかし、まだあの書類はなぜか出回ってないようだな。切り札として取っているのだろう。そこにこちらも付け込む隙はあるはずだ)
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