第30話 できることを

「な、なんだこれは・・・」


書類を1枚1枚読む度に驚きの連続だ。この街でいかにひどいことが行われてきたのか、それを知るには十分だった。


「ということは今回の暴動の正体ってこれらに対しての反抗ってことだったのか?」


「まぁそういうことになるでしょう。問題はこれをどうするかですけど、これを渡した当の本人や街の中の人はいないわけでこれらの書類だけから判断しないといけないんですよね」


そうだ、アヤは何も言わずに立ち去ってしまった。時間が無かった故に仕方がないのだが・・・


(というか結構適当な警備してたんだな。もっと俺達を疑ったり思ったりしてもいいはずなんだけど、やっぱりみんな何かおかしいって思ってるのかな)


「一先ず、これらの書類を一通り目を通してみましょう。なにかこの状況を変えるような決定的なものがあるかもしれない」


そして一通り目を通しては見たが、確かに悪事と言えるものの証拠は見つかったが今回の作戦の指揮を完全に無くすほどの物は見つからなかった。


街の男が保険のために残しておいた半分の方に今回の暴動の原因となった法律の証拠書類はあったのだがそんなことは誰も知る由もない。


「これじゃあ今回の暴動の正当性を通すことはできませんね・・・これはこれで後々必要になるでしょうけど今すぐには役に立ちませんね」


「見た感じそうだな。これじゃあ駄目だってのは俺でもわかる。あのお嬢ちゃんは頑張ったが残念なけっかになっちまったな」


何かないのか・・・もう一度書類の一つ一つに目を通す。だがやっぱりさっきと内容は変わらない。ここまでなのか?


「あれ?これ番号が飛んでるのがあるわね。もしかしてこれで全部じゃないのかしら?」


背後からミサキが書類を覗き込んでいた。いつから近くにいたんだろうか。それよりもさっきの発言だ。


「本当か?これも、これも・・・確かに、番号が飛んでるし明らかに不自然な番号もある。慌てて持ってきたから全部は持って来れなかったのだろうか?」


「ありえなくはない話ですね。でも例えそうだったとしてもこれじゃあ駄目ということに変わりはありません」


「・・・有効かは分からないけどブラフをかけるしかない。もし後ろめたいものがあるならこの書類を見せれば反応で分かるはずだ」


「確かにこの書類が本物ってのは印があるから明らかだけどよぉ、肝心の証拠を出せって言われたらお手上げだぜ?それにこれをどうやって手に入れたかも説明できないしはっきり言うが無理だ」


テイラーの言うことは尤もだ。やっぱり無理なのか・・・


「まぁまぁ、これはこれで使い道はないとは思いませんよ。全体の行動をすぐに止めることは無理でしょうけど一人一人の判断を変えることはできるかもしれない」


「それってつまり・・・」


「そうです。この紙を冒険者たちにばら撒くんです。本来やるべきではないんですがこれしかできないでしょう」


今回の依頼で疑問を持っていた冒険者は確かに多かった。そういった冒険者に対してこれらを見せることで彼らの心情を揺さぶろうということだ。確かに、これしかないかもしれない。


「わかりました。やってみましょう」


「おう、お前ら。忙しくなるが覚悟しとけ」


「まだ夜も明けてないですからね。誰が配ったか分からないうちにやってしまいましょう。配るべきものかどうかの判断は各パーティーのリーダーでするとしましょう。配る途中でばれそうになったら紙だけ近くに置いておけばいいです」


今夜は本当に長い、だがここで休んでいては今までの頑張りはパァになる。各々眠い目をこすりながら冒険者に対して書類をひたすら配り続けた。


「俺達冒険者じゃなくて郵便配達員だったのか?」


「言われてみれば・・・でも貴方結構似合っているわよ」


なんだかんだみんな元気そうである。一晩徹夜くらいできないようでは冒険者として危険な場所で生きてはいけないから当然か。


明け方、冒険者が起き始めるまで配達は続けられた。そして俺達3つのパーティーは逆に眠りにつくのであった。


周りがざわつきだしているが知らない。少しでいいんだ、休ませてくれ・・・


目が覚めたときには既に道草や豪傑軍団のメンバーは起きていた、というかずっと起きたままなんだろう。少しふらふらしていた。


「おいおい、おめぇが急に寝るから俺達は寝れなかったんだぞ。この分の借りは返してもらうからな」


この状況で寝ているのは夜ずっと起きていた見張りくらいだ。全員が寝ていては怪しまれるので他の人は寝るに寝れなかった。本当に申し訳ないことをしてしまった。


「すみません・・・それで今どうなっているんです?」


「あぁ、しばらく攻撃に入ることはなさそうだぜ。ここから離脱しようかって話も出ているくらいだ」


思った以上に効果があったようだ。だが決定打にはならない。ここで稼いだ時間をなんとかして活かさないと。


「おーい、コウキ。何とか戻って来れたよぉ」


アヤが遠くからこちらへ向かって来ていた。あれから追ってを撒いてここまで戻ってきたようだ。


(これで中の様子が少しはわかるかな?)


戻ってきたアヤを3つのパーティーのメンバーが取り囲む。中であったことをみんな知りたいようだ。眠い目をこすりつつ緊張するアヤの話を集中して聞こうとしていた。


「あはは・・・なんだか緊張しちゃいますね。えっと、皆さんが聞きたいことは昨日街で何があったかですよね。上手く話せるか分からないけど頑張って話します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る