第29話 突破

「ここが・・・」


街の建物とはうって変わって非常に豪華な建物だ。領民から搾り取った税で建てたのだろうかという感想が真っ先に浮かんだ。


「さぁ、急いで入ってくれ。あまり時間がない」


男に急かされて急いで後を追う。そして3階の奥にある部屋まで一直線に進んでいった。


「これがその金庫なんだが・・・見ての通り厳重に保管されている。俺達ではどうすることもできなかった」


確かに、魔法に詳しくない私でもわかるほどの魔法陣が幾重にも重なっている。この魔法陣を見る前はなんとかなるだろうという思いはあったがこれを見た後だとその思いも揺らいでいた。


「とりあえずやってみます。危ないから下がってください」


そして持つことを許された刀を構え、気を集中させる。幸いなことにこちらがいくら準備しても反撃などはしてこないようだったので気兼ねなく、最高の一撃が決めれるように神経を研ぎ澄まし続けた。


そしてここだ、と直感で感じれる瞬間が来たので金庫めがけて思い切り剣を振り下ろす。金庫に当たる50cm程手前で魔法陣が作動し、そこで剣は一瞬止まる。だが現れる魔法陣は次々と割れていき、剣の勢いを中々止めることはできない。


やっと止まったかと思えばすべての魔法陣は砕けており、そこにあるのはただの金属で囲まれた金庫だった。


「全く歯が立たなかったり金庫ごと切ってしまったりするかと思ったけど・・・一番良さそうなところで止まってくれてよかったぁ」


アヤは想像する中で一番いい結果になったことに安堵する。しかし、後ろで見ている男は今何が起こったのか全く理解できていないようだった。


「あ、え?なんだろう夢でも見ていたのかな?」


「もう、近づかないでって言ってるじゃないですか。もう一回金庫を斬って中身を取り出すんで下がっててください」


はっ、っとした男は下がり、それを確認すると今度は金庫に対して斜めに斬る。金庫は無事に斬れ、中身も取り出せたのだがここまでの衝撃に耐えられなかった剣はついに折れてしまった。


「私の剣が・・・」


中身が取り出せたことより剣が折れてしまったショックの方が大きく、しばらく立ち尽くしていた。男の方も状況を理解するまでの間まともに動けず無駄な時間が流れていく。最後なんとか状況を飲み込めた男が我に返り、なんとか金庫の中身を取り出し、中にある文書の確認を終えるまでに30分もかかってしまった。ここまでの順調さから考えると実に無駄な時間である。


「すみません。相当取り乱してました」


「いいんだ、俺も同じだったからな。ともかく、これで証拠は手に入った。あとはこれを領主の息がかかっていない者に渡せば・・・また君に頼むことになるがいいかい?」


「はい、そのために来たんですから」


そして男は中にあった書類のうち、半分をアヤに渡す。アヤには言わなかったがアヤの方で何かあった時の保険だ。


書類を受け取ったアヤは男ともに来た道を戻り、そして入ったところからまたコウキの元へ帰ろうとした。まだ夜は明ける気配はない。戻るなら今のうちだ。


「私は一先ず戻るわ。上手くいくかどうかは分からないけどもし戦闘になったらなるべく時間を稼いでほしい」


「あんたらに託すしか希望はないからな。任せろ」


街の周囲の様子を見渡し、相変わらず見ているんだか見ていないんだか分からない状況のままということを確認する。行きはなんとか上手く行けたが、帰りは街から攻めてきたと思われるため、見逃されることはほとんど期待できないだろう。とりあえずコウキのいる方向へ行き、この書類を渡す。そうすれば説明しなくてもあとはなんとかしてくれるだろう。


「さて、行きとは違って荒っぽくなるかもだけど行きますか」


街の外へ飛び出したアヤはコウキと別れた個所をめがけて一直線に駆け抜ける。すぐに気づかれて周りが騒がしくなるが知ったことではない。どの道奴らが動き出す前に私は遠くに行ってしまうからな。


突然の敵襲と思われる状況に混乱が広がる。それもそのはずだ。人数は正確には把握できないがおそらく多くても数人が猛スピードで駆け抜けているからだ。あまりの速さと暗闇で何が起きているのか分からないが首謀者を脱出させるための作戦と考えられたようだ。準備を終えた冒険者達は次々にアヤの元へ向かいだした。


だが、既にアヤはコウキを発見していた。幸い、周りには馬車で乗り合った人達しかいなかったのですぐに目的の物を渡す。


「時間がないからこれを渡すわ。中を確認して大事に扱って、それじゃ」


「お?おぉ。またな」


間もなく、アヤは遠くへと行ってしまった。


(まぁそのうち戻ってくるだろ)


コウキがそう思っていると、少ししてアヤを追ってきた冒険者と兵士たちがぞろぞろとこちらへ向かってきた。俺は咄嗟にアヤから貰った書類を隠す。


「誰か来なかったか?」


「ものすごい勢いで誰かが駆け抜けていってので捕らえきれませんでした」


「そうか、あの速さは確かに難しいよな。俺達は引き続き追うから周囲の警戒を怠らぬように」


「はい、わかりました。お気をつけて」


賑やかだった周囲はすぐにスズカになる。そして道草と豪傑軍団以外のメンバーがいないことを確認してアヤから貰った書類を1つ1つ読みだした。

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