第28話 信じる
夜闇に紛れ、作戦は開始される。アヤが1人で包囲された街侵入しなければいけない。
周囲を見渡してみるが所々灯りが見える。いつ動きがあってもいいように見張り役が起きているのだ。これらの目を盗んで侵入しなければならず、中々最初の一歩を踏み出すことができなかった。
「一通り周りを見てきたがやっぱりどこも最低2人くらいは起きているな。思ったより難しそうだがいけるのか?」
「何かあの見張り達の気を1分くらい逸らしてくれれば・・・」
「数秒ならともかくそれは無理だ。無理そうなら諦めたっていいんだぞ」
「もう少し待ってください」
アヤに引き下がられ、もう少し待つことにする。だが一向にそれらしい時は訪れない。もちろん、各々の顔が見えているわけではないので本当に見ているかどうかは分からない。だが、誰か1人でも見ていた時点で何かしらの報告はされるだろう。正直、そんな時などいくら待っても来るわけがない。行くなら覚悟を決めていくしかないのだ。
「アヤ、今ここで行くか諦めるか選んでくれ。多分このまま待っていても何も変わらない」
「・・・わかったわ。今すぐにいくわ。近くにいると怪しまれるでしょうから貴方が離れるまでは待つわ」
「よし、じゃあ行ってこい。周りの奴らには正体をばれないようにな」
そう言い残してアヤから離れる。程なくしてなるべく音が出ない様にしながら駆け出していく彼女の姿を見た。
最初の数秒は気づかれなかったようだがやはりちゃんと見張りをしていた人が夜闇を駆ける正体不明の物体があることに気付く。
「な、何かが街の方へ向かってます」
「気のせいじゃないのか?」
突然のことに中々信じてもらえないようだ。それもそのはず。街は冒険者と国から派遣された軍で包囲されている。外から街へ向かう者が現れる等ありえないからだ。
「気のせいだったのかなぁ?」
「こんな状況だからな、みんな気が立っている。ちょっとしたことでも過敏に反応してしまうこともあるよ」
運よく他の者達は気づいてはいなかった。意外と手抜きだなと内心思う。これだけの数が見張っているんだから自分が見なくても大丈夫って多くの人が思っていたのだろう。今回はそんな心理に助けられた。
そうこうしているうちにアヤは街への侵入を終える。街の周囲は高い柵で覆われていたが、アヤの前ではないも同然だ。悠々と飛び越えて街の中へと消えていった。
(さて、後は上手く交渉をやってくれるかだが)
ゾツェの街、内部
「ふぅ、何とか侵入できたね。あまり騒ぎにならなかったところを見るにここまでは順調ってことかな?」
見慣れない景色に加え、周りも暗い。ゆっくりと周囲を確認するように歩を進めていたが、流石に侵入者に気付かないわけはなく、気づけば囲まれていた。
「何者だ?どうやって入ってきた?」
「話しますからその手に持っている物をできれば下ろしてくれませんか?こちらに戦う意思はありません」
「駄目だ、武器を下ろすかどうかは俺が判断する。話を続けろ」
「わかりました。では手短に。今回私達は依頼を受けてこの街に向かうように言われました。そして可能であれば話し合いたいと」
「・・・なるほどな。それで?お前はどう話を持っていきたいんだ?」
「一先ずこの戦いがなぜ起きたのか。それと今からでも戦いを回避する方法がないのかについてです」
「お前に話したところで収まるとは思えんがな。まぁいい、話してやろう。この街の領主が碌でもないやつって言うのはお前らも知っているな?」
「えぇ、直接会ったことはないけどいい噂は聞かないわ」
「そうだ。だがお前らが想像している10倍くらいひどい奴だ。一月ほど前にあいつは才能値の無い奴は役に立たん。せめてもっと税を納めることで役に立てと言って才能値が低い奴ほど税が上がるような法律を急に作ったんだ。お前も知っての通り才能値が無い奴程収入が少なくなることは知ってるだろう?税に苦しむ民があっという間に増えていったんだ」
「それを見かねた俺達が領主とそれに味方する奴を捕らえようとした。だが領主を逃がしてしまったため領民の反乱という形で俺らは追われる者になったというわけだ」
「ひどい・・・そんなことがばれたら国王も黙っていないでしょうに」
「そうならない様に役人含めて賄賂を渡してあるからな。全く、こういう知恵だけは無駄に持っているんだからな」
「なんとかして貴方達の正当性を伝える機会があればいいんだけど・・・」
「無駄さ、こうやって反乱を起こしてしまった以上どうやっても俺達は助からないだろう。だがこうしなければ才能値の無い奴は全員野垂れ死んでいた」
男は口を噛み締める。それだけの苦渋の決断だったということだ。
(どうしよう、思ったよりも面倒な話だわ。私だけで判断しなくちゃいけないんだけど・・・無理ね)
「と、とりあえずこの話を私のパーティーに伝えてみるわ。今ならまだ夜も明けてないし戻れるかもしれない」
「おい、ちょっと待て。俺達の話をお前のリーダーは信じるかもしれねぇ。だがそこまでだ。あいつの悪事の証拠でも持っていかない限りはただの戯言だ。なんとかしてその証拠さえ手に入れば・・・」
「秘密の文書と言えば金庫とかないの?」
「あるにはあるが強力な魔法と硬い金属で封じられているため専用の鍵以外ではびくともしないぜ」
「・・・私ならいけるかもしれない。案内してくれる?」
「武器を持つ口実を得たいのか?それなら許可はできない。お前は怪しすぎる。今ここで捕まえてもいいくらいだ」
「そうねぇ、じゃあ私が貴方達に絶対勝てるとわかったうえでこの場に一人で来たと言ったら?」
「武器無しで俺達全員を倒せたら信じてやるよ」
男はそう言うと同時に囲んでいた全員でアヤめがけて突撃する。アヤは剣は持っていなかったが素早い足踏みで瞬く間に男たちに背後を取り、1人、また1人と気絶させていく。数秒後には先程まで話していた男一人だけが立っていた。
「なるほどな、お前に言っていることは本当のようだ。わかった。ついてこい」
男は倒れていた一人を叩き起こし、これから領主の館に行くと伝えた。館へ向かう男の足取りは妙に軽く見えた。絶望しかない状況で一筋の光を感じたからだ。
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