第26話 怪しげな依頼

変わった依頼が貼りだされていた。緊急を要する依頼とのことで、ここから少し離れた街で暴動が起きたらしくその鎮圧と首謀者を捕らえるというものだ。報酬も悪くなく、多くのパーティーが参加を表明していた。


「リーダー、パッと見は悪い依頼ではなさそうだけどどうする?暴動があった街の領主はあまりいい噂は聞かないからそこが不安だけど」


「参加するなら早めにしないともうすぐ枠は埋まるからな。悩んでいる時間はないからここは俺の判断で行かせてもらう」


そして俺達のパーティーも参加することを受付に伝える。参加するパーティーの一覧を見ると陽炎の名前もあった。そういえばあれから一度も会ってなかったな。聞きたいことも色々溜まってきているしいい機会かもしれない。


間もなく、定員に達したことが伝えられそれを聞いた冒険者達はぞろぞろと帰り始める。詳しい話はここでされず、明日の出発の時にされるそうだ。なんだか怪しいなぁ。同じことを思っている冒険者も結構いた様で少しざわついていた。


「すまない、時間が迫ってたから依頼を受けてしまったが許してくれ」


「今回は仕方ないわ。でも内容の説明が直前までないってのはちょっと不自然よね。何か悪いことが起きないといいけど」


アヤはこの場に居なかったが俺とミサキはこの依頼を受けたことが良かったのか、モヤモヤしたまま次の朝を迎えることになった。


「昨日から2人共様子が変ですねー。そんなに依頼の内容が気になります?」


アヤはその場にいなかったのであの会場の独特の雰囲気が分からない。だから俺達2人と少し温度差があるようだ。


「そうだな、でもその疑念ももうすぐ晴れる。さぁ、準備はできているな?そろそろ出ようか」


指定の場所に向かっていくのは俺達だけではない。近づくにつれ冒険者らしき人が少しずつ増えていく。見知った顔も幾つかいたが陽炎のメンバーの姿は発見できなかった。


(結構な数のパーティーが呼ばれてたしな。もしかしたら最後まで一緒になることはないかもしれないし期待はしないでおこう)


大勢の冒険者が集まっている前に今回の依頼者が現れる。多少ざわついてはいたが依頼者が話し始めると静かになる。流石にここで問題を起こすリスクはわかる人達だけのようだ。


「朝早くからこれ程の冒険者が集まってくれたことに感謝する。これなら今回の依頼が速やかに達成される。そう確信した。では依頼の内容について話す。皆も知っての通り、ゾツェの街で暴動が起き、これを鎮圧使用しようとしているが苦戦している。このままでは他国にこの国が弱っていると思われ攻撃されるリスクが増えてしまう」


「そのため、諸君らにもこの暴動を鎮圧する手助けをしてもらいたい。また、今回の首謀者とされている男はこいつだ」


いかにも悪人といった風に描かれた男の顔が描かれた紙を広げる。


「この男を捕らえて連れてきて欲しい。生死は問わんが生きていた方が報酬は多い。その辺は各自で任せよう。以上だ、早速パーティー毎に名前を呼ぶから来てほしい」


次々とパーティー名が呼ばれて馬車に乗っていく。陽炎の名前も途中聞こえたが人が多く、姿までは確認できなかった。


「次、疾風果敢」


「呼ばれたな、さぁ行くぞ」


「はぁ、快適な道中だといいんだけど」


「こんな沢山の冒険者と一緒に行動するって不思議な感覚ですよね。まるで軍隊みたい」


各々違うことを感じながら馬車へと乗り込む。俺達の他に2つのパーティーが乗っていて結構狭い。これはゆっくりとはいかなさそうだな。


「俺らで終わりと思ってたのにまだ3人も乗るのかよぉ、狭いったりゃありゃしないぜ」


同じ馬車に乗っている人の1人は狭さに早速文句を言っている。わかるよその気持ち。俺だって文句を言いたい。


「まぁまぁ、とりあえずここで乗り合ったのも何かの縁。お互いに自己紹介でもしましょうか。私は道草のリーダー、ヨウヘイです。メンバーの紹介は省略させてもらいます。各々でした方がいいでしょう。あと何かあったら私に行ってください」


「次は俺だな、俺らは豪傑軍団だ。リーダーは俺、テイラーだ。よろしくな。こまけぇことは適当にやってくれ」


(さっきと違ってぶっきらぼうなやつだな。まぁいいか)


「俺はコウキ、疾風果敢のリーダーだ。うちのパーティーも道草と同じ感じで」


「じゃあ後は目的地に着くまで狭い中だけど各自親睦を深めましょうか」


「ちょっと待った。コウキと言ったな?お前のパーティー3人しかいなさそうだけど本当にそれで大丈夫なのか?」


テイラーは急に俺めがけて鋭い目でにらみつける。確かに、2つのパーティーはそれぞれ6人、7人となっていてそれぞれに役割がある。3人でそれらをカバーするのは難しいと思われたようだ。


「あぁ、確かに3人だ。だが戦力的には引けを取ってないと思う」


「へっ、そうかい。ならいいんだ。今回の依頼何か変な感じがする。足手まといになるようなことがあれば困るからな」


「それは私も思いました。断る隙も与えずになにやら焦っているようにも見えました。お互い無事でいられるように頑張りましょう」


「そうですね・・・こうしているうちにメンバー同士はもう打ち解け初めているようですね。安心しました」


狭い馬車の中、とても快適とは言えなかったが冒険話を各自楽しんでいる。大体の馬車でそうだった。一部の馬車では場所争いのせいか言い争いになっていたらしいが。

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